許されざる主人公に「感情移入してしまう」理由

田中圭、“異常な願望”を持つ教師を演じる。『女子高生に殺されたい』開始5秒でわかるスゴさ
(画像=『女子SPA!』より引用)

 前述したように、田中圭演じる主人公は女子高生に殺されたいという歪んだ信念を持ってしまっている人物だ。劇中の描写を観ていなくても、タイトルの時点で観客はそれをわかっているはずなのに、冒頭のビデオ映像における田中圭の熱演のために、早くもその認識が揺らいでしまう。何しろ、そこで映されているのは、「人には言えない望みを、言葉を詰まらせながらも、なんとか打ち明けようとする」哀れな姿なのだから。

 思えば、「女子高生に殺されたい」に限らず、誰しもが人に言えない望みや欲望を1つや2つは持っている、それを表に出さないように努めているからこそ、普段の社会生活を送れているのではないか。それだけを取り上げれば普遍的とも言ってしまえる悩みに、田中圭の熱演が合わさることで、許されざるはずの主人公に、冒頭のたった5秒で「感情移入してしまう」のだ。

「正しいこと」もしているように「思える」からこそ…

田中圭、“異常な願望”を持つ教師を演じる。『女子高生に殺されたい』開始5秒でわかるスゴさ
(画像=『女子SPA!』より引用)

さらに、この田中圭演じる主人公はその後にも「正しいこと」もしているように思えるところもある。表向きに生徒たちに投げかける言葉は真っ当も真っ当であるし、前任の教師の許されない行為に同調する意見について「思わないですよ」とバッサリと切り捨てたりもするのだから。

 しかも、表向きの言動だけでなく、観客にだけ知らされるモノローグでは純然たる「正義心」も語っていたりもする。裏の顔においても「けっこうまともじゃないか」と観客の心理を揺さぶってくるのだ。

 だが、やはり同時に女子高生に殺されたいという歪んだ信念を持ち行動していることも、次々に見せつけられる。教師と生徒という立場を少しだけ飛び越え、誘っているように見える場面もあるし、劇中では「自身を特別な存在だと信じ込ませようとしている」とも語られるため、ハッキリ言って気持ち悪いはず……はずなのだ。

 だが、前述したように「正しいこと」もしているように思えるところもある上、田中圭というその人が持つ魅力と、何より香り立つような色気、はたまた清潔感のおかげで、その気持ち悪いはずの主人公に単純な嫌悪感だけを覚えるだけではいられなくなってしまう。端的に言えば「この先生を信じてはいけないとわかっているはずなのに、ついつい心を許してしまいそうになる」。だからこそ、良い意味で気持ちをぐちゃぐちゃにされるというわけだ。おそらく、田中圭のファンであればあるほどに。