人口で世界1位2位の中国、インドをはじめ、アジアの国々が世界的な存在感を増しています。シンガポールやマレーシアといった東南アジアの国々も、テクノロジーの発展を生かして日本以上の経済成長率となっています。

そんなアジア各国について、あなたはどのくらい知っているでしょうか?今後、日本にも大きな影響を与えていくであろうアジアをはじめとした世界の開発途上国・新興国について、60年以上にわたり研究を続けてきた機関があります。「日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所」です。実はアジア経済研究所は、かねてから女性研究者の割合が高いという特徴も持っています。

今回お話を聞いたのは、ジェトロ理事でアジア経済研究所担当の村山真弓さんと、学術情報センター長兼図書館長の村井友子さん。お二人の入所理由から、最近の研究、専門図書館についてまで詳しく伺いました。

名前
(画像=村山真弓)
村山真弓(むらやま・まゆみ)
日本貿易振興機構理事、アジア経済研究所担当。1984年アジア経済研究所入所、専門分野は南アジア地域研究、ジェンダーと開発、労働問題、域内関係。著作に『知られざる工業国バングラデシュ』(村山真弓・山形辰史編 アジア経済研究所 2014年)、『これからのインド:変貌する現代世界とモディ政権』(堀本武功・村山真弓・三輪博樹編 東京大学出版会 2021年)など。
日本貿易振興機構理事、アジア経済研究所担当。1984年アジア経済研究所入所、専門分野は南アジア地域研究、ジェンダーと開発、労働問題、域内関係。著作に『知られざる工業国バングラデシュ』(村山真弓・山形辰史編 アジア経済研究所 2014年)、『これからのインド:変貌する現代世界とモディ政権』(堀本武功・村山真弓・三輪博樹編 東京大学出版会 2021年)など。

名前
(画像=村井友子)
村井友子(むらい・ともこ)
1990年にアジア経済研究所に入所し、当時の図書資料部にライブラリアンとして配属される。1998年から2000年にはメキシコに海外派遣員として赴任。2019年から現職。専門図書館協議会で研修委員長として、日本全国の専門図書館で働くライブラリアンを対象とした研修プログラムの企画・立案・運営を推進。2020年度からはZOOMによるオンラインセミナーを展開中。
1990年にアジア経済研究所に入所し、当時の図書資料部にライブラリアンとして配属される。1998年から2000年にはメキシコに海外派遣員として赴任。2019年から現職。専門図書館協議会で研修委員長として、日本全国の専門図書館で働くライブラリアンを対象とした研修プログラムの企画・立案・運営を推進。2020年度からはZOOMによるオンラインセミナーを展開中。

女性職員比率42%、女性管理職比率35.6%を誇るアジア経済研究所

アジア経済研究所(以下、アジ研)は1958年に財団法人として創立し、60年に通商産業省(当時)傘下の特殊法人化、1998年に日本貿易振興会(現、日本貿易振興機構)と統合、2003年に独立行政法人化、2020年に60周年を迎えた研究機関です。学界・財界・政界それぞれの要望を踏まえ設立されました。設立当初からアジア以外の地域も意識しており、中東、ラテンアメリカ、アフリカなどの開発途上国・新興国の政治・経済・社会について研究を積み重ねています。

約110人のプロパー研究者を擁していて、「基礎的かつ総合的な調査研究」という目的で途上国研究をしている機関の中ではなんと世界最大級だそう。この中で30年以上にわたって活躍しているのが、村山さんと村井さんです。

村山「私が入所した1984年の時点で、既に女性研究者は男性と同じくらい活躍していました。アジ研に入所すると、若手の海外派遣が通例になっているのですが、これは女性にも同様に適用されます。子どもがいる女性は、子連れでも海外派遣に行くことが当たり前と受け止める職場環境がありました」

2021年現在のアジ研の女性職員比率は42%。管理職は35.6%。一般企業の女性従業員比率が平均26.5%、管理職比率は平均8.9%であることを踏まえると、かなり高い水準です。(※帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査(2021年)」より

なぜ、アジ研では女性割合が高いのでしょうか。

昔を紐解いてみると、財団法人であった1959年には女性職員によるお茶くみが廃止。61年には、女性職員結婚退職内規が廃止されています。64年には賃金格付け上の男女差別が解消され、70年に初めて女性研究者の海外長期派遣がなされました。こういった動きは、日本社会全体から見ると早い取り組みでした。

村山さんは、「当時の女性研究者・職員の努力があったからこそ、現在のような男女を問わず活躍できる組織となったのだと思います。採用にあたっても、管理職の登用にあたっても、女性だからということをあまり意識することはありません」と語っています。また、若手やベテランという区別も大きくなく、若手女性職員も自由な雰囲気の中で働いているようです。

村山さんや村井さんが、アジ研に入所した理由を聞いてみました。

村山「大学時代に、高校の友人に誘われ『アジアを考える会』という勉強会に参加したことから、アジアの問題、美しさ、面白さに関心を持つようになりました。大学のゼミでは、アジアの各地を歩き、人々に寄り添い、その痛みとともにしたたかさを伝えてくれる先生に師事したことで、アジアの現場に出て何か仕事ができればいいなと考えるようになりました。アジ研を知ったのは、4年になる前の春休み、ゼミの先輩がアジ研内でのアルバイトを紹介してくれたことがきっかけです。途上国に関わることができ、また女性も海外に出してくれるような良い職場だと思い、採用試験を受け、運よく採用してもらえました」

村井「1980年代後半にJICA青年海外協力隊でカリブ海のドミニカ共和国に2年間赴任しました。その際、日本とは大きく異なるラテンアメリカの文化・社会・人に魅了され、同時に、開発途上国ならではの様々な問題を目の当たりにし、身をもって体験することができました。帰国後も、開発途上国の発展に関わる仕事をしたいと考えていたところ、アジア経済研究所図書館でライブライアンの採用があることを知り、私の専門である図書館情報学と開発途上国での経験を生かせるまたとないチャンスと考え、応募しました」

「障害と開発」「ビジネスと人権」「ジェンダー」など社会課題も研究テーマに

そんなアジ研では具体的に、どんな研究をしているのでしょうか。多くの研究者は、興味関心に応じて研究対象となる「地域」や「テーマ」を決めて、それぞれ深掘りしていく形となっており、村山さんは「南アジア」や「ジェンダー」などの研究を専門としてきたそうです。

最近のアジ研では、「障害と開発」「ビジネスと人権」「ジェンダー研究」といった社会的課題をテーマにした研究が多く立ち上がっています。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響などを調査する研究も数多く立ち上がり、それらはすべて「アジ研 新型コロナ・リポート」という特集ページで閲覧することができます。

幅広い研究に加え、図書館もアジ研の特徴の1つです。アジア経済研究所図書館は、約70万冊という中規模の大学図書館ほどの規模を持ち、その膨大な資料を誰でも閲覧できる状態になっているのです。60年以上をかけて集めてきたアジア、アフリカ、中東、ラテンアメリカ等に関する資料がすべて見られる貴重な施設となっています。

さらに、出版物においてはWeb上でも公開されています。2020年からは、アジ研の刊行資料は基本的に電子書籍(eBook)で配信しているようです。コロナ禍の影響を受けて、現地での調査がしづらくなったとはいえ、継続的な地域研究は進み、電子書籍は2021年には3点、2022年には既に7点が刊行予定となっています。

また、研究成果のみならず、時事問題やスポーツ、芸能、食文化などを通じて見える社会事情などを幅広く解説した記事もIDEスクエアというウェブマガジンで読むことができます。

世界最大級の途上国研究機関だからこそできる社会貢献

3.子連れで海外派遣も!?女性職員比率42%を誇るジェトロ・アジア経済研究所が見据える未来
(画像=wei/stock.adobe.com)

人口爆発、米中IT戦争、グローバル規模の資源・環境問題など、あらゆる社会問題が顕在化している今、「アジ研が今後果たす役割はとても大きい」と村山さんは語ります。

「アジ研は、政策への直接的、短期的な寄与というより、歴史的、構造的な深く長い視点から、途上国の変化や日本との関係を考える資料となる研究を行っています。それをきちんと必要な人に届けていくことが今後の課題です」

圧倒的な研究の積み重ねと資料収集の蓄積は、日本にとっての大きな財産です。これらを政府、企業のみならず、NGOなど市民団体、学校などにも届けていくことで、グローバルな視点から日本経済や社会問題の解決にも寄与できるのではないでしょうか。

「100人以上の研究員と、それを支える職種に加え、大きな図書館や出版機能を持つアジ研だからこそできる社会貢献をしたい」と村山さんは力説しました。

2022年1月27日には、世界銀行・朝日新聞社と共催で国際シンポジウム「サステナビリティと企業の社会的責任:SDGsを現実にするポスト(ウィズ)コロナの10年に向けて」がオンライン形式で開催されました。

本シンポジウムのテーマは「ビジネスと人権」。SDGsの進捗とコロナ禍による打撃を評価しつつ、SDGsを現実のものとするために、ビジネスと人権の企業の取り組みと課題、サステナビリティを導く政策のあり方について、ポスト(ウィズ)コロナを見据えて議論しました。こういったイベントは今後も随時開催を予定しています。

文・fuelle編集部

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