温泉は、日本の文化ともいえるほど生活に根付いています。国内旅行で温泉地をめぐったことがある人は多いのではないでしょうか。この温泉文化を成り立たせているのは、日本各地にある火山と、その下にある地熱資源です。実は日本は、世界第3位の地熱大国。地下深くの熱エネルギーが豊富だからこそ、日本には温泉文化が育まれたのです。
実はこの地熱資源、温泉以外に、発電所や農業などにも活用されています。さらに今後はその活用の幅が広がるだろうと言われています。地熱資源のよりよい活用に向けた「地熱モデル地区プロジェクト」を展開する、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC) 地熱事業部企画課の寺井周さん、金瀬美音さんに、地熱資源の活用方法について聞きました。
地熱を使うことで唯一無二の観光資源ができる!
日本が、世界第3位の地熱資源大国であるということを知っていますか?環太平洋造山帯の真上に位置する日本には、火山がたくさんありますよね(あの富士山も火山のひとつ!)。火山の地下深くにはマグマが溜まっており、非常に高温の熱を生んでいます。熱水と蒸気が地熱資源となるのです。
地熱資源は太陽光や風力と同じ、「再生可能エネルギー」です。最近では、環境にやさしいこれらのエネルギーを活用していくことで、サステナブルな社会への転換を図ろうという動きも活発化しています。特に日本は、国土は小さいにもかかわらず、アメリカ・インドネシアに次ぐ地熱資源を持ちます。また、その地熱資源は海外と比べて比較的高温になっているため、温泉以外にもさまざまな用途に活用することができるようです。
ですが、実際にどのように活用できるのか、地熱資源が身近ではない人にはイメージがつきにくいかもしれません。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)では、地熱資源活用のモデルとなる地域を指定し、その取り組みを支援する「地熱モデル地区プロジェクト」を行っています。
現在モデル地区に指定されているのは、北海道森町・岩手県八幡平市・秋田県湯沢市の3地区。これらの地域では、どのような取り組みがなされているのでしょうか。お二人に語っていただきました。
「北海道森町には、オリジナルハヤシライス『森らいす』というものがあります。この『森らいす』に使われているトマトソースは、地熱資源を活用した園芸ハウスで栽培したトマトからつくっています」(寺井さん)
寺井さんがお話された「地熱資源を活用した園芸ハウス」について。これは、北海道で唯一の地熱発電所である森発電所で地熱蒸気を生産するときに副次的に発生する熱水を、真水と熱交換し、温水を園芸ハウス施設に供給する仕組みを使っています。これによって、北海道の厳冬期でもトマトを栽培・出荷することができます。
副次的に発生する熱を利用しているので、資源の無駄遣いを防ぐことができ、さらにこの農家では年中トマト栽培ができることによって、継続的に利益を得ることもできるようになったそうです。(参考=森町みりょく発見!)
「秋田県湯沢市では、パクチーの栽培や牛乳の低温殺菌加工に熱水を利用しています。また、NPO法人日本ジオパークネットワークから認定されている『ゆざわジオパーク』では、地熱を掛け合わせた観光促進も行っています」(寺井さん)
観光と地熱の掛け合わせというのも、新しい発想です。湯沢市では「地熱のまち“ゆざわ”」として地域振興にも役立てているのですね。
「岩手県八幡平市では、地熱蒸気を活用した『地熱蒸気染め』を行っています。八幡平市の地熱蒸気染めは世界でもこの地でしかできない染色技法で、テレビ番組にも取り上げられました」(金瀬さん)
地熱蒸気の温度や成分、含有量などのバランスは、地域によって異なるので、その土地にしか出せない色合いになるようです。まさに唯一無二の観光資源ですね。
東日本大震災を機に地元住民が結束
地熱モデル地区プロジェクトで指定されている3地区以外にも、全国で地熱資源は活用されています。たとえば福島市では、地熱発電所の配出する湯水をエビの養殖に活用しているそうです。どういうことでしょうか。
東日本大震災と原子力発電所の事故による風評被害の影響で観光客が激減してしまった福島県。危機感を募らせた地元の温泉協同組合が主体となり、2015年、磐梯朝日国立公園内に位置する土湯温泉に、国内最大級の温泉バイナリー地熱発電所が創設されました。
現在、この発電設備は年間約300万キロワット時の電力を供給し、安定した売電収入は地域貢献事業にも活用されています。さらに、地熱発電所から排出される温水をエビの養殖に利用することで、光熱費をかけずに低コストで養殖事業を運営。温泉街の一角にエビ釣りができるカフェをオープンし、新たな観光スポットとなっています。
「この一連の取り組みを指揮した株式会社元気アップつちゆの加藤勝一さんは、地熱をはじめとする再生可能エネルギーの活用や再開発を通した地域ブランディング活動を推進されており、昨年会津若松市で行われた地熱シンポジウムにもご登壇いただきました」(寺井さん)
加藤さんが登壇されたという地熱シンポジウムは、2021年11月22日に、「地熱シンポジウム in 会津若松~温泉と地熱の共存~」としてJOGMEC主催で実施。2つの基調講演と、トークセッション、パネルディスカッションを行いました。
会場には抽選で選ばれた一般の方を招待し、当日はYouTubeでのライブ配信を行い、合わせて1,744名が集まったといいます(アーカイブ動画は現在も視聴可)。「お越しいただいた方には、地熱の盛り上がりを肌で感じていただけたと思っていますし、オンラインと組み合わせることで今まで以上に多くの方に関心を持っていただけたかなと感じています」と金瀬さんは手ごたえを口にします。
シンポジウム後には福島民報、福島民友、福島テレビなど地元メディアへの掲載も実現。参加者アンケートでも、87%が好意的な回答をするなど、盛り上がりを見せました。
課題も多いけれど、希望も多い地熱資源
これらの取り組み以外にも、地熱には今後多くの可能性が秘められています。北海道出身の寺井さんは、次のような理想を抱いています。
「北海道では冬になるとガンガン石油ストーブを焚きます。でも、せっかく地熱発電所で使い終わった熱水が余っているなら、家の暖房や、道路や屋根の融雪に使えたらいいのにと常日頃思っていました。ただ、この業界に入って知ったことなのですが、地熱発電所は基本山奥にあるので、街までパイプを引いてくることや使用後の還元性など、現状ではハードルがあります。これを乗り越える方法ができてくるとより活用幅が広がると思います」(寺井さん)
地熱資源の活用を広げていくために、JOGMECでは地熱モデル地区をはじめとする地熱ネットワークの拡充に取り組んでいます。地熱資源開発は地域と密接にかかわって実施していくものであり、地域住民との合意形成が重要。その基盤となるような自治体への支援、国際的な技術交流、理解促進がJOGMECの役割です。
寺井さんは、「いかに全国展開をしていくかが今後の課題」と話します。そのため、地熱モデル地区の3地区だけでなく、全国各地に地熱資源活用を進めるべく、事例を広く発信することを大切にしています。
資源の少ない日本にとって貴重な資源である地熱は、これからあらゆることに使われながら、地域の観光や文化をさらに支えていくものとなるでしょう。
文・fuelle編集部
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