「電動キックボード」が街を走っているのを見かけたことはありませんか?「電動キックボード」は、原付(原動機付き自転車)でも自転車でもない新しいパーソナルモビリティの形として、いま注目を集めています。

電動キックボードの事業者は、その普及を目指して東京や神奈川、千葉などで公道を走る実証実験を行っています。事業者がこれらの実証実験を安全に行いやすくするために「新技術等実証制度(以下、規制のサンドボックス制度)」という制度が設けられています。この制度がより活用されるようになると、新しい技術が社会にどんどん取り入れられていくでしょう。

今後の私たちの生活をより便利にしてくれるかもしれないこの「規制のサンドボックス制度」について、内閣官房・新しい資本主義実現本部事務局企画官、松山大貴さんに聞きました。

松山大貴(まつやま・だいき)
松山大貴(まつやま・だいき)
東京国際映画祭事務局等を経て、2011年経済産業省中途入省。エネルギー政策(関連税制・予算等)、地域経済産業政策(地方創生等)に従事し、スポーツ庁創設時に出向しスポーツ産業振興を担当。帰任後、中小企業政策(下請取引対策等)、商務サービスグループ政策企画委員を経て、2021年7月より現職。規制のサンドボックス制度の運用や総合調整等を担当。
東京国際映画祭事務局等を経て、2011年経済産業省中途入省。エネルギー政策(関連税制・予算等)、地域経済産業政策(地方創生等)に従事し、スポーツ庁創設時に出向しスポーツ産業振興を担当。帰任後、中小企業政策(下請取引対策等)、商務サービスグループ政策企画委員を経て、2021年7月より現職。規制のサンドボックス制度の運用や総合調整等を担当。

実証実験が法改正につながる!モビリティとブロックチェーンの事例

1.電動キックボードが公道を走れるようになったワケ
(画像=Solveig/stock.adobe.com)

企業が新しい技術や新しい事業を行う際、どうしても既存の法律にぶつかって、規制されてしまうことがあります。その壁に対して、限定的に実証を行いながら可能性を探り、社会実装につなげる制度が「規制のサンドボックス制度」です。2018年6月の施行以降、いろいろな分野の事業計画が認定され、実証プロセスへと進んでいます。

冒頭の電動キックボードも、この制度を活用した事業計画の一つとしていくつかの会社が実証実験を行っています。株式会社Luupでは、横浜国立大学常盤台キャンパス内の一部区域で、無料のシェアリング実証を実施しました。まずは松山さんに、この実証実験についてご紹介いただきます。

「株式会社Luupさんは、電動キックボードのシェアリング事業を通じて、新しい手軽な交通手段を提供するとともに、3輪又は4輪型の電動キックボードを用いて、高齢者の移動手段の選択肢を増やしていくことを目指しています。電動キックボードの安全性を検証するために大学構内で実証を行った後、『新事業特例制度』という規制の特例措置を設けて事業を推進していく取組みへとステップアップしています」(松山さん)

モビリティは事故の危険性があるため、安全への配慮が特に必要な領域です。慎重にならざるを得ない一方で、テクノロジーの発展に伴ってモビリティの形は変わっていくもの。その変化に対して、規制のサンドボックス制度を活用することでスピーディーに対応していくことができるのです。

「実証実験の結果を踏まえて道路交通法、道路運送車両法といった関係法令の見直しに向けた議論が始まり、法改正の準備がいま着々と進められている状況です。実証によってエビデンスを積み上げたことで、法整備の流れが生まれてきた。そういう意味で象徴的な事例だと思います」(松山さん)

もうひとつ、最新のテクノロジーの活用を広げる事例があります。サスメド株式会社が行った、「ブロックチェーン技術を用いた臨床データのモニタリングシステムに関する実証」です。

ブロックチェーン技術を使うと「セキュリティレベル向上」「モニタリングの正確性の担保」「研究開発コストの削減」などのメリットが見込めるものの、これまでにブロックチェーン技術を使った治験等のモニタリングが行われていないことから、治験等の終了後に厚労省やPMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)に指摘を受け、その治験が認められないリスクがあります。

そこで、治験や特定臨床研究のモニタリングにブロックチェーン技術を活用する実証実験を行い、データの信頼性を確保することに成功しました。また、モニタリングの効率化にも資する仕組みとなっており、コストの削減にもつながります。これによって日本の製薬産業の国際競争力を維持・強化し、社会保障の持続可能性に貢献することを目指しています。

規制のサンドボックス制度の窓口に相談してから実証まで、数か月で進められることもあれば1年近くかかることもあり、ケースバイケースです。「ご相談いただいたらハンズオンで議論や調整を進めていきます」と、松山さんをはじめ内閣官房・新しい資本主義実現本部事務局の方々と十分なすり合わせの上、フレキシブルに実証計画を立てていくことができるようです。

スピードのギャップを埋めるために「まずやってみる!」

2.電動キックボードが公道を走れるようになったワケ
(画像=Vasil/stock.adobe.com)

このように、いろいろな可能性を秘めた規制のサンドボックス制度ですが、そもそもなぜこの制度が生まれたのでしょうか。

事例として紹介したモビリティやブロックチェーンだけでなく、フィンテックやIoTなど様々な分野でテクノロジーが高度化しています。その技術を使うことで、生活をより便利で豊かにする製品やサービスが生み出されようとしている現代ですが、これらを支える制度面の変革のスピードが追い付いていないのが実情です。

「製品やサービスが生まれるスピードと、制度などのルール面を見直すスピード、この2つのスピードのギャップを埋めていくことが求められています。そこで、期間や参加者を限定した『実証』という形で『まずやってみる!』をスローガンとして、2018年に規制のサンドボックス制度がつくられました」(松山さん)

様々な実証で得られたデータや知見、浮き彫りになった問題点などを、事業化や次の規制の見直しにつなげていく。「まずやってみる!」というスローガンを持つ規制のサンドボックス制度は、種々の規制が強い日本において、新しい技術を早く普及させるための一つの手段となったのです。

ヘルスケア領域は今後よりテクノロジーが活用されていくと予想

3.電動キックボードが公道を走れるようになったワケ
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

2018年6月の施行以降、認定された事業計画は21事業。あらゆる業種業界に広がりを見せていますが、松山さんは特に今後広がりを見せるのは「ヘルスケア領域」ではないかと話します。

「ヘルスケアと一言で言っても、先ほどご紹介した臨床研究へのブロックチェーン活用という研究領域もあれば、一般患者向けのオンライン受診領域もあります。安全や安心に密接にかかわる領域は規制も強くなっていますが、これらの領域にいかに新しい技術やビジネスを展開できるかが規制のサンドボックス制度の活用として重要な場面です」(松山さん)

また、松山さんは「我々は事業者さんの活動をより前進させる役割を担っている」とも語っています。なぜなら、実証によってスピーディーにエビデンスやデータを集めていくと、結果的に事業の成功率が高まることが予想されるからです。

企業が開発したり考えたりしている新しい技術やビジネスモデルに対して、どのようなリスクや規制があるのか、どうしたら実装に近づけるのか。これらを政府と相談しながら進めていけるのが規制のサンドボックス制度の魅力です。

つまり、規制的な問題を抱える領域・事業だけでなく、企業の「新事業の創出」自体を支援してくれる取組みであると言えます。

「新しいビジネスがどんどん生まれていく“事業創出の苗床”のような機能を果たしていきたいというのが、本当に思っているところです。あらゆる場面で規制のサンドボックス制度を使って実証を行っていただける環境をつくっていきたいと思います」(松山さん)

日本は、安心安全を重視するあまり、新しいものの受け入れが遅れがちだと言われます。世界のテクノロジーがさらにスピードアップして進化している中で、企業のチャレンジをサポートする規制のサンドボックス制度は、日本が世界に取り残されないために重要な役割を担っていくのでしょう。

文・fuelle編集部

【こちらの記事も読まれています】
つみたてNISAにおすすめの口座ベスト3!比較ポイントとは
SBI証券と楽天証券どちらで開設する?つみたてNISAやiDeCoも比較!
つみたてNISA 毎月いくら積み立てるのがいい?自分に合った金額の決め方
主婦がつみたてNISAを始めるメリット・デメリット!iDeCoとの違いも解説
つみたてNISAの商品はどう選ぶ?FP厳選おすすめ商品3つ