30代の御盛んな時代から50代の尻窄まり時代に
NYのアラサー独身女性4人(サマンサのみ、正確にはアラフォー)の恋愛や婿探しの冒険を描いた画期的で斬新なコメディ「セックス・アンド・ザ・シティ」(1998〜2004年)は、HBOプレミアケーブル局の甲板番組の一本です。性描写に規制が厳しかった地上波局のドラマやコメディに慣れている視聴者に「えー、そこまで言っちゃうの?」「ギョッ!丸出し!?」と言わせる程、衝撃的な作品でした。SATC以降、HBOはプレミアケーブル局と言う立場をフルに利用して、ポルノ同様の作品を次々と発表し、放送倫理の枠をどんどん拡張して行きます。
しかし、今回HBO Maxが配信する続編は、地上波局でも規制緩和が続き、最近では過激な暴力や性描写も観られるようになった2012年にデビューを果たしました。更に、55歳=X世代(団塊の世代とミレニアル世代の間)のキャリー、シャーロット、ミランダ(シンシア・ニクソン)は、皆結婚して曲がりなりにも家庭を持っているので、SATCの頃の勢いは全く失せてしまいました。セックスシンボルだったサマンサ不在も相まって、続編のタイトルからセックスと言う言葉が消えてしまった訳です。もっとも、版権の問題でSATCを使えなかったこともあるようですが. . .
人間、歳と共に柔軟性を失い、現状維持に凝り固まってしまうものです。心理学者エリクソンは、人間の発達段階7(40〜65歳)を壮年期と呼び、「次世代育成能力vs.停滞の時期」と定義しました。子育てや職場の後輩育成等、次世代を養う時期で、反対に自分のことだけ考えて生きていると後世に自分の足跡を残せるか?と言う不安に襲われる停滞の時期でもあると言います。壮年期真っ只中のキャリーは、最愛の人を失くして喪失感に見舞われて足場を失い、ミランダは企業弁護士を辞めて人権法を新たに勉強して停滞を避けようと必死になり、専業主婦シャーロットはまだまだ子育てに余念がありません。キャリーが体験した人生最大の喪失は、安心しきって立っていた足場を覆されて、天と地がひっくり返ってしまった状態と言えるでしょう。私の大好きな「グッドワイフ」で、クリエイター(ロバート&ミシェル)キング夫妻が主人公アリシア・フローリックに課した「天と地がひっくり返った時こそ、人間が成長する機会」と同じです。変身=成長しなければ、喪失の意味がゼロになってしまう分岐点とも言えます。
又、wokeな(=人種差別や社会問題に対して関心を持つ/敏感なこと)若者と付き合い切れない、時代の流れに辛うじてついて行こうとしているものの、肝心の場で禁句を口にして白い眼で見られたり、救いの手を差し伸べて逆に非難されたり、まるでヤマアラシか毬栗になってしまったような生き辛さを感じる壮年期を実に見事に描いています。