小松菜奈と井浦新の絶大なインパクト

振り回される林遣都が愛おしい…『恋する寄生虫』の“不器用で優しい”演技がイイ
(画像=『女子SPA!』より引用)

 もう1人の主人公と言っていい、不遜で毒舌な女子高生を小松菜奈が演じるというのも、これ以上のないキャスティングだ。 『渇き。』(2014)や『来る』(2018)などで林遣都と同等かそれ以上に不良性のある役柄も演じてきたこともあり、今回は「目力」から攻撃的で、同時に複雑な想いを抱えていることを感じさせる。その厭世的な態度や仕草が、「放っておけない」魅力があるので、彼女を理解しようとする林遣都の役により思い入れができるし、2人が本当にお似合いのカップルに見えてくるのだ。  さらに、その2人を引き合わせる謎の男を井浦新が演じているというのも重要だ。最近では「良き父親」を演じることも多かった井浦新だが、今回は端的に言ってめちゃくちゃ怖い! 威圧的な態度であっという間に主導権を取る様は「絶対に敵わない」印象があるし、役柄そのものが謎めいていることもあって、その表情の変化の良い意味での少なさが底知れない恐怖を呼び起こす。  だが、彼もまた「それだけではない」内面を持つ役柄であり、そこで井浦新の演技力が最大限に活かされていた。

CMやミュージックビデオを手がけた監督の化学反応

 本作でメガホンを取った柿本ケンサク監督は、主にCMやミュージックビデオでキャリアを積み上げてきた映像作家だ。今回の『恋する寄生虫』の映画化のオファーについて柿本監督は「なぜ僕に?」と初めこそ疑問に思ったが、「プロデューサー陣はラブストーリーのジャンルの真逆にいる自分のような演出家を投入したら面白くなるのではないかと考えたのかもしれない」とポジティブにとらえ、「いっそのこと自分にしかできない化学反応を起こしてやろう」と監督に挑んだのだという。  その化学反応は、本編で間違いなく起こっていた。何しろ、本作では確かにCMやミュージックビデオを思わせる「派手」とも言っていい映像演出ががたくさんある。それらは決して気をてらっただけのものではなく、例えば「手のひらで菌が広がっていく」という演出が主人公の潔癖症を視覚的に表現していたりもする。その凝った映像の数々は、それ自体がエンターテインメントとして面白いし、言葉による説明に頼らずテンポ良く心情や関係の変化を示すことに成功していた。  また、美術や小道具にも工夫があり、例えば林遣都演じる主人公の部屋のカーテンは冒頭はブルーだったが、小松菜奈演じる女子高生が来てからはオレンジになり、キス寸前になると赤色になっているそうだ。「言われないとわからないが、自然と観ている人の心理に影響を与える」ような演出にも柿本監督はこだわっているので、ぜひ注目してみてほしい。