今回は、原文がイギリス英語なのかアメリカ英語なのか気をつけながら訳す方法を考えてみましょう。
産業翻訳の仕事に携わっていたころ、契約書やビジネスレターの日英翻訳の仕事を受けたとき、仕上げをイギリス英語にするかアメリカ英語にするか必ず訊いていました。というのもイギリス英語とアメリカ英語ではスペリングや意味が異なる場合があるからです。
簡単な例を挙げましょう。イギリス英語で first floor とは、日本語でいう「2階」のことです。しかしアメリカ英語では「2階」のことを second floor というのです。わかりやすくまとめると以下のようになります。
日本語 | イギリス英語 | アメリカ英語 |
---|---|---|
1階 | ground floor | first floor |
2階 | first floor | second floor |
3階 | second floor | third floor |
細かいことのように思うかもしれませんが、ビジネスレターの中にOur office is on the second floor. とあったら、その second floor を「2階」と訳すのか「3階」と訳すのかは大きな問題です。というのもこれで誤解が生じると下手をすれば商談ができなくなる可能性すらあるからです。
では、逆に次のような英文があった場合、どのように和訳すればいいでしょうか。
The theatre is on the first floor of the building.
まずはそのまま訳してみましょう。
直訳:劇場はそのビルの1階にあります。
さて、first floor は本当に「1階」と訳していいでしょうか。
こういう場合、書かれてある英文がイギリス英語なのかアメリカ英語なのかを判別する必要があります。
書籍の場合は、その著者がイギリス人かアメリカ人かを調べたり、もしそれが分からない場合は著書全体を通してイギリス英語で書かれた書籍かアメリカ英語で書かれた書籍なのかを調べたりすれば判別することができるでしょう。
著書全体を通してイギリス英語で書かれているかアメリカ英語で書かれているかを調べる方法はあります。一番簡単なのはスペリングで判別する方法です。アメリカ英語とイギリス英語とでは異なるスペリングの単語が多々あるからです。
例を見てみましょう。
日本語 | イギリス英語 | アメリカ英語 |
---|---|---|
センター | centre | center |
ライセンス | licence | license |
ソックス | socks | sox |
色 | colour | color |
カタログ | catalogue | catalog |
居心地が良い | cosy | cosy |
書籍全体を通してイギリス英語のスペリングが散見されるようであれば、それはイギリス英語で書かれていることが分かります。
もしそれが書籍ではなく、ビジネスレター等の場合は書いた人の国籍を訊けば、判別できるでしょう。
仮に上記の英文がイギリス英語で書かれたものであると判別できた場合、文中の first floor は日本語でいう「2階」に相当することになります。これを踏まえて訳を修正してみましょう。
修正訳:劇場はそのビルの2階にあります。
これでよさそうですが、じつはこれでも万全だとは言い切れません。読者が「2階だと書いてあるのだから second floor のことだろう」と思いかねないからです。小説などの場合はたいした問題ではないかもしれませんが、ビジネスレターの場合だと、読者は second floor に行きかねないため、注意が必要です。
正確さを期するためには以下のような工夫もできます。
宮崎訳1:劇場はそのビルの2階(first floor)にあります。
あるいは、文末に脚注をつけて「原文のfirst floorは日本でいう『2階』に相当する」と説明する手もあります。
宮崎訳2:劇場はそのビルの2階にあります(注:原文のfirst floorは日本でいう「2階」に相当する)。
このようにイギリス英語かアメリカ英語かによって意味が変わってくることがありますので、その点も気をつけて訳す必要があります。
さて、「階」と同じように気をつけなければならないのが「日付」です。
例えば、「3/5/2001」とあったら、アメリカ英語では「2001年3月5日」になりますが、イギリス英語では「2001年5月3日」になります。
以上、今回のレッスンでは、原文がイギリス英語なのかアメリカ英語なのか気をつけながら訳す方法をご説明しました。
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