箱根町芦之湯にある「箱根ドールハウス美術館」は、国内外から収集した貴重なドールハウスを展示する美術館です。ドールハウスを愛してやまない館長・新美康明さんが集めたコレクションの総数は100点以上。200年前のアンティークから近代作品まで、さまざまな種類の作品が揃います。館内には図書コーナーが併設されたカフェや、人気作家の作品を購入できるミュージアムショップなど見どころが満載!今回は実際に訪れてわかった箱根ドールハウス美術館の魅力や、館長に聞いたおすすめスポットを紹介します。
ドールハウスは「人形の家」ではない?
ドールハウスの魅力を語るときにまず知っておきたいのが、名前の意味です。
ドールは直訳すると「人形」、ハウスは「家」。したがって「人形の家」と解釈される方が多いかもしれません。しかし、本来の意味は「小さな家」であり、実物の1/12の基準で作られた精巧なミニチュアハウスを指します。
ドールハウスは、家の骨組みから調度品に至るまで本物と同じように作られているため、製作当時の時代背景を正確に読み取れるほどのリアリティを誇ります。
縮尺を小さくしただけで本物の家と変わらない精巧な作りから、「小さな家」と呼ばれるようになったそうです。
ドールハウスの歴史
ドールハウスの歴史は、16世紀中頃のドイツで始まったと伝えられています。貴族が愛娘の情操教育のために、実際に家を作った職人たちに製作を命じました。
当時は高い技術を持った職人がマイスターの敬称で呼ばれ、精巧なミニチュア作りに情熱を燃やしていた時代。
ドールハウスの製作に必要な材料のほとんどは本物の素材を使っていたため、莫大な時間と費用がかかりました。
そんな背景から、当時はドールハウスを持つことが貴族や特権階級のステータスになっていたのです。
18世紀のイギリス産業革命をきっかけに安価な材料が手に入るようになると、一般市民の間でもドールハウスの人気が徐々に広がるようになりました。
ヨーロッパから海を渡りアメリカへ。そして20世紀後半には日本でも親しまれるようになり、今日に至ります。
新美館長に聞く!ドールハウスの魅力
若い頃にドールハウスと偶然出会ってから、徐々にその魅力にのめり込んでいった館長の新美さん。
20年ほど前、美術文化プロデューサーとして子どものための美術館を企画する最中、縁があってオランダのドールハウス美術館を訪れたのが興味を持つきっかけになったのだとか。
そんな新美さんは、もっぱら作るよりも見て楽しむ派。
ミニチュアといえど丹精を込めて製作された作品からは、教科書だけでは知りえない歴史の真実が垣間見られるといいます。
たとえば、こちらのドールハウスに注目してみましょう。
「ピルグリム(清教徒)の住居」と名付けられたこの作品は、1620年のイギリスとアメリカの情勢を色濃く反映しています。
当時のイギリス国教会は、他宗派に対する弾圧や迫害を強めていたため、清教徒たちはアメリカマサチューセッツ州のプリマスへの移住を余儀なくされました。
新天地の生活は予想以上に過酷だったので、先住民であるネイティブ・アメリカンの助けを借りることで生き延びた世帯もあったそうです。
その証拠に、奥まで覗くと先住民の姿が見て取れます。先住民の横には折り畳み式ベッドがあり、当時の生活の様子もうかがえます。
ドールハウスの中央に視線を移してみると、当時の清教徒たちには目新しい収穫物であったトウモロコシがボウルによそわれています。
これから先住民を招待して感謝の食事を振る舞うシーンであり、これが「感謝祭」の起源になったという説もあります。
このように、ドールハウスを通じて当時の生活を考察することで、字面を追うだけでは実感できない、もう一段深い学びに繋がるのが最大の魅力です。
もちろん歴史を学ぶだけではなく、美術作品として細部までじっくり観察したり、実際にドールハウスを作ったり、コレクションしたりと、人それぞれの楽しみ方を見つけるのも良いでしょう。
館長の新美さんは、ドールハウスの魅力を多くの人に伝えるために、独自に厳選した楽しみ方を提案しています。