今回のレッスンでは、単数か複数かを意識して訳したほうがいい場合の例を見ていきます。

日本語では、名詞に単数と複数の区別はありません。したがって、例えば、cat でも catsでも「猫」は「猫」です。「猫ズ」に変化するといったことはありません。

ところが英語では、複数形は基本的に単数形とは異なりますから、英文の著者が単数か複数かを意図的に区別している場合は、訳文でそれが明確にわかるように訳すように工夫すべきです。

ただし、日本語の名詞には単数と複数の区別はないといっても、例えば、countriesを「諸国」problemsを「諸問題」と「諸」を付けて訳すこともできる場合があります。問題は先ほどの「猫」のように「諸」が付けられない場合です。

例を見てみましょう。

It is time to draw some new cards.

まずは直訳してみましょう。

直訳:新しいカードを引くときです。

一見これで良さそうですが、この訳文だけを読むかぎり、新しいカードを何枚引くのかがわかりません。1枚だけなのか、2枚以上なのか、それがわからないのです。単数か複数かが分からなくてもいい場合もあるでしょうが、単数か複数かの区別が重要ということもありえますので、このままの訳文で訳し終えたとするのは早すぎます。

かといって、some new cards を「何枚かの新しいカード」とするのは読みづらくなるだけです。何かいい方法はないでしょうか。

「何枚か」を後ろにもってきましょう。

宮崎訳:新しいカードを何枚か引くときです。

次の例を見てみましょう。次はアインシュタインの伝記からの引用です。

Einstein needed many partners in his life, particularly wives, secretaries, and assistants.

直訳:アインシュタインは生涯において多くのパートナーを必要とした。とくに数人の妻・秘書・アシスタントを必要とした。

細かいことを抜きにすれば、この訳でもいいでしょう。しかしこの訳文を読めば、「妻・秘書・アシスタント」を全部ひっくるめて「数人」であって、「妻」はひとりだったと思う人も多いでしょう。日本人からすれば「妻がひとりであること」は常識だからです。

しかしここがミソなのです。英文をよく見てください。wifeではなくwivesになっており、このことから「妻」も複数いたことがわかります。このことが明確にわかるように訳してみましょう。

宮崎訳:アインシュタインは生涯において多くのパートナーを必要とした。とくに妻・秘書・アシスタントをそれぞれ複数必要とした。

このように訳せば、「妻」も複数いたことがわかります。単数・複数が重要な場合は、とくにこの点に気をつけて訳しましょう。

次は応用問題です。これはある人生論からの引用です。著者が「裕福になっても幸せになれない」と説いた後、「では有名になったら幸せになれるだろうか」と問いかけた直後の文です。

I have known famous people and many of them live a life of despair.

まずは直訳してみましょう。

直訳:私は有名人を知っていますが、彼らの多くは失意の日々を送っています。

この原著者は有名人を何人知っているでしょうか。単数でしょうか、複数でしょうか。

考えてみれば、そもそも有名人は誰でも何十人、何百人と知っていることでしょう。誰でも知っているからこそ「有名人」なのですから。ですから当然、ここも複数と考えられます。

では、「有名人を知っています」を「複数の有名人を知っています」と訳しただけでいいでしょうか。

実は know には「知っている」という意味以外にも「~と知り合いである」とか「交際している」という意味があります。文脈から、上の文ではそういう意味で使われていることが分かります。

訳文を修正してみましょう。

宮崎訳:私には有名人の知り合いが何人かいますが、彼らの多くは失意の日々を送っています。

今回のレッスンでは、単数か複数かが分かるように訳したほうがいい例を見てきました。

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