「本が好きだから、出版翻訳家になりたい」という方は多いでしょう。ここでいう「本」を具体化する必要性については、第54回の「出版業界は、ひとつ?」でお伝えしました。あなたの好きな本が純文学なのか、ミステリなのか、児童書なのか、自己啓発書なのかなど、分野によって取り組み方も変わってきますし、分野を絞らなくてはいけないからです。今回は、あなたの好きな「本」が「紙の本」なのか「電子書籍」なのかを考えてみましょう。

出版不況といわれて久しいですが、そんな中でも電子書籍は売上を伸ばしています。昨年の推定販売額が前年比で30%近く増加しているのです。間もなく発売になる私の新刊は、紙の本と電子書籍が同時発売になります。このような形態が増えているだけでなく、最近では佐伯泰英さんの時代小説123作品がまとめて配信開始されて話題になったように、過去の作品の電子書籍化も進んでいます。このような傾向から、今後も電子書籍は伸びていくと見込まれますし、電子書籍のみの発売も増えていくでしょう。

この連載の読者の方から、電子書籍で翻訳書を出すことになったとお知らせいただいたことがあります。ご自分が好きな作家さんにSNSで直接コンタクトをとり、新刊の発売とタイミングを合わせて日本語版を電子書籍で発売できることになったそうです。なるほど、そういうアプローチもあるのかと思いました。

電子書籍へのスタンスは、人によって違います。どの程度活用しているかによっても、電子書籍での出版についての受け止め方は異なるでしょう。

私の場合は紙の本への愛着が強いので、電子書籍はざっと内容を把握したい実用書など、情報として入手できればいいものの場合だけ利用します。ゆっくり味わって読みたい本や、考えながら読み込みたい本はやはり紙の本を選びます。そのため、翻訳書も紙の本で出したいという思いが強いのです。海外の読者への便宜などを考えると、電子書籍でも出版できるのはもちろんありがたいのですが、あくまでも紙の本があっての電子書籍という位置づけです。

これは分野によっても違うでしょう。たとえば絵本のように紙の質感や色合いが重視されるものであれば紙の本でないと表現できないでしょうし、純文学寄りになるほど紙の本への志向も強まるように思います。逆に、最新情報をいち早く読者に届けることを重視する実用書であれば、電子書籍との親和性は高いでしょう。

今後電子書籍が普及していくことで、一人ひとりの受け止め方も変わっていくかもしれません。また、技術的な進歩によって電子書籍で表現できることが増えれば、評価も変わってくるでしょう。

電子書籍のほうが参入はしやすいでしょうから、あなたに紙の本へのこだわりが特になければ、電子書籍での出版翻訳を考えてみてもいいかもしれません。また、「やっぱり紙の本で出したい」という場合でも、電子書籍で実績を積んで紙の本で出すという実績づくりに活用できます。電子書籍で人気の高い本は紙の本で出されることもありますので、PRに努めることで紙の本につなげることもできるでしょう。

これからの時代の出版翻訳家として、電子書籍との関わり方も考えてみるといいかもしれませんね。

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