生前贈与に生命保険を活用するという選択

そこで考えたいのが、生前贈与に生命保険を活用するという方法だ。ただし、相続税対策のためには、保険料負担者と保険金受取人について慎重に検討しなければならない。

父、母、子という世帯を例に考えよう。契約者・保険料負担者・被保険者が父で保険金受取人が子、という一般的な加入形態の場合、父の死亡により子に支払われる保険金には「相続税」がかかる。「500万円×法定相続人の数」により算出される非課税限度額を超える部分について、相続税が課せられる。

一方、被保険者が父で保険料負担者・保険金受取人が子、という加入形態の場合、父の死亡により支払われる保険金は一時所得に算入され、「所得税」が課せられる。そしてこの場合の一時所得は、「(死亡保険金額−支払い済み保険料−50万円)×1/2」という計算式により算出される。

死亡保険金が5000万円、支払い済み保険料が4000万円であったと仮定して、具体的な課税対象額を算出してみる。

前者の加入形態の場合、「5000万円−(500万円×2)」で算出される4000万円が課税対象になる。一方、後者の加入形態の場合、「(5000万円−4000万円−50万円)×1/2」で算出される475万円が課税対象になる。

「誰が保険料を負担するのか」によって、課税対象額にここまでの違いが出るのだ。

保険料を暦年贈与する

ここで上述した暦年贈与が活きてくる。まずは子や孫に対して毎年決まった額を暦年贈与する。そして子や孫はこれを資金に、自分を保険料負担者、保険金受取人、親や祖父母を被保険者として生命保険に加入するのだ。これならば現金を贈与しても浪費される心配がないし、保険金が支払われるまでにある程度の期間があるため受贈者が若い場合も安心である。生前贈与と生命保険を組み合わせれば、懸念事項を解消しつつ効果的な相続税対策ができるのだ。

保険料の贈与を否認されないための対策

親・祖父母が子・孫に現金を暦年贈与する。これを受けた子・孫は自分を契約者、親・祖父母を被保険者として生命保険に加入する。保険料は、贈与された現金により子・孫が支払う。被保険者の死亡により受け取った保険金は一時所得に算入され、所得税の課税対象となる。

これが、生前贈与と生命保険を組み合わせた相続税対策のあらましだ。しかし、生命保険に加入して保険料を払っているだけでは、税務当局に「贈与」を否認されてしまう可能性がある。実質的に保険料を負担しているのは父・祖父母であり贈与はなかった、とみなされる可能性があるのだ。

では、贈与を税務当局に否認されないためにはどうすればいいのだろうか。国税庁は1983年9月に以下のような事務連絡を行っている。

「最近、保険料支払能力のない子供等を契約者および受取人とした生命保険契約を父親等が締結し、その支払保険料については、父親等が子供等に現金を贈与し、その現金を保険料の支払いに充てるという事例が見受けられるようになった。」
「この場合の支払保険料の負担者の判定については、過去の保険料の支払資金は父親等から贈与を受けた現金を充てていた旨、子供等(納税者)から主張があった場合は、事実関係を検討の上、例えば、(1)毎年の贈与契約書、(2)過去の贈与税申告書、(3)所得税の確定申告等における生命保険料控除の状況、(4)その他贈与の事実が認定できるものなどから贈与事実の心証が得られたものは、これを認めることとする。」
(以上、昭和58年9月「国税庁資産税課事務連絡」より抜粋)

つまり国税庁は、生前贈与された現金を保険料の支払に充てるケースがあることを考慮し、以下のような場合は贈与があったことを認める、と公表しているのだ。すべての要件を満たす必要はないが、証拠は多ければ多いほどいいだろう。

  • 毎年行われる贈与について、その都度「贈与契約書」を交わしている
  • 過去の贈与税申告書がある
  • 加入している生命保険について、親が生命保険料控除を受けていない
  • 子供名義の預貯金に現金が毎年振り込まれているなど、贈与の事実を確認できる証拠がある 贈与契約書は、「毎年」交わす必要がある。「今後10年間にわたって毎年100万円ずつ贈与する」という内容にすると1000万円の贈与があった(100万円×10年)とみなされ、贈与税が発生してしまうのだ。

    また、子が親の扶養に入っている場合、子が名義となっている生命保険契約であっても親が生命保険料控除を受けることができる。しかしこれをすると、税務当局に「親が保険料を負担しているのではないか」と疑われてしまう。相続対策のために加入する生命保険については、親が生命保険料控除を受けないよう注意したい。