大混乱の中、限られた時間で決断するハードさ
――それも、魔の2週間の出来事?
藍原:おそらく、そうですね。すごい密度の濃い時間だったと思います。情報を集めるのも大変なのに、焦らされながらの判断でした。まぁ、温存にしても全摘にしてもメリットとデメリットはあるので、どちらを選んでも、100%満足することはないと思います。ただ、代替医療など、まったく違うところにいってしまうと戻ってくるのが大変なので、はじめの一歩はやっぱり大切だと思います。
――「死ぬかもしれない」という大混乱の中、限られた時間内にベターな選択を決断しなくてはいけない。想像以上のハードさです。
藍原:2人に1人ががんになると言われていますが、自分には関係ないって思ってる人が多いように思います。でも、明日あなたが告知されるかもしれない。明日あなたの家族や大事な人、職場の人ががんを告知されるかもしれない。そのときから情報集めるのは大変。だから、イメージトレーニングというか予行練習をしておいてほしいなと思います。「なるかもしれない」ではなく、むしろ「なる」ぐらいな気持ちで、「私だったら」を考えてもらいたいですね。
――災害の避難訓練と同じですね。
藍原:魔の2週間についても、「告知後2週間は大変なんだ」と知っていたら、気持ちが違うと思うんです。たとえとして適切かはわかりませんが、生理中はホルモンバランスが乱れ、普段どおりに活動できない、と知っていれば、自分を責める気持ちも和らぎますよね。 それと同じで、魔の2週間はどんなに荒れても取り乱しても「仕方がない」と思っていいし、そういうものだと知っていたら、少しは気持ちが違ってくると思います。
「がんになるのは落ち度があったからではない」
――藍原さんのお話を伺って思うのは、がんになった後の情報って少ないですよね。がんにならない、予防のための健康法は巷(ちまた)にあふれているのに。
藍原:メディアも読者も、予防のほうに力を入れていますよね。でも、がんは予防できません。私が言い切ってしまっていいのかわからないですが、がんはなるときにはなるんです。 本にも書いて、患者さんたちから「共感した」と言っていただいたんですが、がんになったのは、あなたに落ち度があったからではないんです。
――そうですよね。
藍原:お酒も飲まず、タバコも吸わず、ストレスも少なく、食生活に気をつけた人ががんになることは、実際にある。でも知識がないから、がんの告知を受けた人に責任があるようなことを言ったりする。私も、「仕事、忙しすぎたんじゃない?」と言われましたし。