「もし、自分ががんになったら?」「もし、大切な人ががんになったら?」

 そんな想像をかきたてるのが、コミックエッセイ『がんの記事を書いてきた私が乳がんに!? 育児があるのにがんもきた』(KADOKAWA)。フリーライターの藍原育子さんが乳がんと告知され、手術を乗り越え、「がんは自分の一部」だと受け入れていくまでの“闘病後記”が、内野こめこさんの漫画によって描かれます。

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(画像=『女子SPA!』より引用)

2人に1人ががんになる時代、藍原さんの経験を他人事と言い切れる人はいません。「がんになる」「がんと生きる」とはどういうことなのか、3回にわたって藍原さんに話を聞きました。

「死ぬかもしれない」の感情は、知識を軽く超えてくる

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(画像=『女子SPA!』より引用)
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(画像=『女子SPA!』より引用)
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(画像=『女子SPA!』より引用)
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(画像=『女子SPA!』より引用)
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(画像=『女子SPA!』より引用)

――藍原さんは医療系の記事を執筆するライターで、乳がんに関しての知識も豊富。それでも告知後は不安と恐怖に襲われます。やはり、「悪性です」の告知は厳しいものでしたか。

藍原育子さん(以下、藍原):とても情けないと思ったんですが、ダメでしたね。ある程度の知識はあるので、がんの種類やステージのことなど、病気についての理解自体はすごく早かったと思います。でも、だからといって冷静でいられるわけではない。「死ぬかもしれない」という感情は、知識を軽く超えてくるというのが実感です。

――知識があっても混乱するなら、知識がなかったらどうなってしまうのか……。

藍原:夜な夜な検索して、いろんな方の闘病記などを見ましたが、「全然ショック受けなかった」という人がいれば、「自覚症状があったから、むしろ告知されてホッとした」という人もいます。告知をどう受け止めるかは人それぞれです。私の場合、ずっと良性腫瘍だといわれていたのに悪性と告げられ、青天の霹靂(へきれき)だったというのもありましたし。  知識は完全な盾にはなってくれない。知識があるから冷静でいられるわけではない。ただ、知識があったから、はじめの一歩を間違えずにすんだのはあったと思います。

――はじめの一歩?

藍原:私は乳房全摘と同時再建という標準治療を選びましたが、そうではない選択肢もあります。「死ぬかもしれない」という不安や恐怖につけ込んでくる情報はたくさんあるんです。しかも、それらはとても魅力的。 「完治します」「大丈夫」「がんが消えます」――欲しい言葉をきっぱりと言ってくれる。でも、それは信じてはいけない情報なんです。

――「治る」「大丈夫」と言ってもらいたいですよね。

藍原:医学的根拠に基づいて治療をする先生方は、絶対にこうした言葉は言ってくれません。不安や疑問をぶつけても、言われるのは「なんとも言えません」「エビデンスがありません」「再発するかしないかは分かりません」。  がんになる前、「どうして、標準治療ではなく代替医療を選ぶ人がいるんだろう」と思っていました。きつい言い方になりますが、「なんで、騙されちゃうんだろう」って。  でも、経験してみると、すがりたくなる気持ちはすごくよくわかります。

――なるほど。

藍原:冷静になればわかるんですが、非常時はそこに飛びつきたくなる。どんなに細い糸でもすがりたいし、私だけはその糸をつかめるんだと思ってしまう。私が、治療法の選択というはじめの一歩で間違わなかったのは、がんについての基礎的な知識があったからだと思います。

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(画像=『女子SPA!』より引用)

はじめの一歩をまちがえないために

――はじめの一歩では知識が羅針盤になる。でも、誰もが普段から医療情報に接しているわけではありません。

藍原:「ここを見れば信頼できる情報が手に入る」、というところを、知っておくだけでもいいと思うんです。国立がん研究センターの『がん情報サービス』というサイトは、わかりやすくまとまっていて、告知されて最初に見るのにいいと思います。  あと、「SNS医療のカタチ」というプロジェクトがあり、4人の医療者の方々が中心となって、ツイッターやYouTubeで根拠ある情報を楽しくわかりやすく伝えてくれています。告知されて、「がん 治る」で検索するのか、「国立がん研究センター」のサイトを開くのかで、はじめの一歩は変わってくると思うんですよね。

――知っておくだけで、違いますね。

藍原:「備えておく」のは大切だと思います。がんの宣告はいわば「非常事態」。とくに、告知からの2週間は、非常時の中の非常事態――「魔の2週間」です。がんであることを受け入れ、治療方針などを決めていかなくてはいけない。この間にだいたいのことが進んでいく。ずっと頭の中でアラームが鳴り響いていて、「どうする? どうする? どうする?」と選択を迫られるような状態です。でも、普段から正しい情報に触れていると、非常事態のなかでも大きく間違うことはないんじゃないかと思います。