「扶養家族」といえば配偶者や子どもを思い浮かべますが、30代後半から40代の人は、親を扶養家族に入れることも考えてみましょう。自分の扶養に入れると税金が安くなりますし、親にとっても国民健康保険料を払う必要がなくなるなどのメリットがあります。

今回は特に税金上の扶養に着目して、扶養に入れる側の税金がいくら安くなるのか、実際のシミュレーションを交えてご紹介します。また、扶養控除の対象になる人の条件や、「配偶者控除」との違いなども解説していきます。

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所得税と健康保険、2種類の「扶養家族」を知ろう

「扶養家族」という言葉は、所得税と健康保険の2つの制度で使われています。

「所得税法上の扶養家族」と「健康保険の扶養家族」の違い

所得税法 健康保険
呼び方 扶養親族 被扶養者
制度の目的 税金の負担が軽減される 保険証が交付され保険給付が受けられる

これら2つの制度は別のものなので、扶養に入れる際の条件も異なります。所得税法上の扶養親族であっても健康保険上の被扶養者でないことがあり、その逆もあります。

今回は、扶養する人にとってメリットが大きい「所得税法上の扶養親族」について詳しく見ていきましょう。

扶養家族が増えると所得税・住民税が安くなる

所得税法上の扶養親族になるには、

  • 親や子どもなどの近い親族であること
  • 生計を一にしていること
  • 年間の合計所得額が38万円以下(給与収入のみの場合、103万円以下)であること などの条件を満たす必要があります。
    出典:国税庁 『扶養控除』

家族を扶養に入れるメリットは、何といっても扶養している側の税金が安くなる、つまり手取りが増えることです。

税金がどのくらい安くなるかは、扶養する人の年収や年齢、扶養に入れようとしている人と同居しているかどうかによって変わります。また、所得税だけでなく、住民税の控除も受けられます。
 

次に、扶養控除の対象になる扶養親族の条件を詳しくみていきましょう。
## 扶養控除の対象になる人の条件は?詳しく解説! ### 「扶養親族」にあたる人の条件 「扶養親族」は、以下の4つの条件をすべて満たす人のことをいいます。
扶養親族に該当する人の範囲
(1) 配偶者以外の親族(6親等内の血族または3親等内の姻族)、
都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)、
市町村長から養護を委託された老人のいずれかであること
(2) 納税者と生計を一にしていること
(3) 年間の合計所得金額が38万円以下(令和2年分以降は48万円以下)
であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
(4) 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて
一度も給与の支払を受けていないこと、
または白色申告者の事業専従者でないこと

この「扶養親族」のうち、その年の12月31日現在の年齢が16歳以上の人が「扶養控除の対象」になります。

上の4つの条件はとても細かく、聞きなれない言葉もあるので、それぞれの内容を確認していきましょう。

「6親等内の血族」、「3親等内の姻族」とは?

「血族」とは、自分と血がつながっている人のことをいいます。ただし、血がつながっていなくても、養子縁組をした場合には法的な血縁関係が生まれるため、血族に含まれます。

6親等内の血族は、以下のようにかなり広い範囲の親戚を指します。

6親等内の血族

1親等 父母、子
2親等 祖父母、孫、兄弟姉妹
3親等 曾祖父母、ひ孫、おじ・おば、甥・姪
4親等 高祖父母(曾祖父母の父母)、玄孫、
祖父母の兄弟姉妹、いとこ、甥姪の子
5親等 高祖父母の父母、来孫(玄孫の子)、
曾祖父母の兄弟姉妹、祖父母の甥姪、
いとこの子、甥姪の孫
6親等 高祖父母の祖父母、昆孫(来孫の子)、
高祖父母の兄弟姉妹、祖父母のいとこ、
はとこ、いとこの孫、甥姪のひ孫

一方、「姻族」とは婚姻によってできた親戚のことで、いわゆる義理の家族のこと。配偶者の親戚だけでなく、自分の血族の配偶者も含まれます。

3親等内の姻族

1親等 配偶者の父母
子の配偶者
2親等 配偶者の祖父母、兄弟姉妹
孫や兄弟姉妹の配偶者
3親等 配偶者の曾祖父母、おじ・おば、または甥・姪
ひ孫、おじ・おば、または甥・姪の配偶者

「生計を一にしている」とは?

「生計を一にしている」とは、簡単にいうと同じ家計で生活しているという意味です。

同じ家計というと、「同居している人」というイメージがありますね。でも会社員の人が単身赴任などで別居している場合や、親族が学校や病気の療養のために別居している場合でも、生活費や学費・医療費などを常に送金していたり、休み中に帰省して一緒に生活したりしていれば「生計を一にしている」親族と見なされます。

「青色・白色申告者の事業専従者」とは?

会社員の人にはあまり馴染みがないかもしれませんが、「青色申告者」や「白色申告者」とは、簡単に言えば自営業者や個人事業主のことです。

これらの人は自分で確定申告をしますが、確定申告には青色申告と白色申告があります。「事業専従者」とは、これらの申告をしている人の事業で働いている人のことです。

たとえば、自分が経営しているレストランで父母をアルバイトとして雇って給料を支払っている場合、その父母は「事業専従者」となるので扶養親族ではなくなります。ただし、扶養控除は受けられなくても他の控除が受けられる可能性はあります。
出典:国税庁 『青色事業専従者給与と事業専従者控除』

では次に、扶養家族がいる場合、実際に税金がどれくらい安くなるかをシミュレーションしてみましょう。

減額される所得税を年収別にシミュレーション

年収300万円の人が別居の親(62歳)を扶養に入れた場合

年収300万円の独身の人が別居している親を扶養に入れた場合、どのくらい税金が安くなるのでしょうか。

結論から先にお伝えすると、今回の例では1万9,400円も所得税が減額されることになります。扶養の有無で所得税にこれだけの差が生じるのですね。
 

親を扶養に入れない場合の所得税 親を扶養に入れた場合の所得税
5万6,400円 3万7,000円

どのように計算をするのか、詳しく見ていきましょう。

・所得税の求め方
所得税の額は、次の手順で求めることができます。
 

1. 収入から各種の所得控除を引いて課税所得を出す
2. 課税所得に応じた税率を乗じる

今回は計算をシンプルにするため、所得控除は「基礎控除」「給与所得控除」「社会保険料控除」のみを考えています。また、 62歳の別居の親は表の「一般の控除対象扶養親族」にあたります。

税額の計算の手順に沿って「扶養に入れない場合」と「扶養に入れた場合」の所得税の金額を比較してみましょう。

・親を扶養に入れない場合の所得税
所得税の計算に必要な情報や計算結果をまとめたものが、以下の表です。詳しく見ていきましょう。

<年収300万円 親を扶養に入れない場合の所得税>

(A)収入 300万円
(B)各種所得控除 ・基礎控除
(所得税)38万円
・給与所得控除
108万円
・社会保険料控除
43万4,000円
(C)合計:189万4,000円
(D)課税所得 110万6,000円
(E)所得税額
(D×5%+復興特別税2.1%)
5万6,400円

所得税額を求めるには、まず(D)の「課税所得」を計算します。「課税所得」とは、収入金額から各種控除を引いたものです。

収入金額 - 各種控除合計金額 = 課税所得

住宅ローンや寄付金などの控除がない場合、年収300万円の人が適用される控除(B)は、計189万4,000円(C)です。これを計算式に当てはめると、この例の「課税所得」は

(A)300万円 - (C)189万4,000円 = (D)110万6,000円

となります。

所得税は、(D)の「課税所得」を元に計算します。「課税所得」が195万円以下の場合の所得税率は5%なので、「親を扶養に入れない場合の所得税額」は以下のように計算できます。

110万6,000円 × 5% + 復興特別税2.1% =5万6,400円

(E)所得税額は5万6,400円だということがわかりましたね。

・親を扶養に入れた場合の所得税
次に、同じ人が“62歳の別居の親を扶養に入れた場合”を計算してみましょう。親は「一般の控除対象扶養親族」にあたるので、38万円の扶養控除が受けられます。

<年収300万円 親を扶養に入れた場合の所得税>

(A)収入 300万円
(B)各種所得控除 ・基礎控除
38万円
・給与所得控除
108万円
・社会保険料控除
43万4,000円
・扶養控除(一般)
38万円
(C)合計:227万4,000円
(D)課税所得 72万6,000円
(E)所得税額
(D×5%+復興特別税2.1%)
3万7,000円

「親を扶養に入れる前の課税所得」からこの38万円をさらに引いた72万6,000円が(D)「課税所得」です。

続いて所得税を計算しましょう。親を扶養に入れない場合と同じく課税所得に5%を掛け、復興特別税をプラスします。
 

72万6,000円 × 5% + 復興特別税2.1% = 3万7,000円

出てきた金額3万7,000円が(E)所得税額となります。

・住民税の計算
扶養家族が増えたときは、住民税も同様に控除されます。

住民税の計算は地域によって若干差がありますが、税率は約10%なので、扶養に入れる親が「一般の控除対象扶養親族」にあたる場合、
 

33万円 × 10% = 3万3,000円

の減額が見込めます。

このケースでは所得税が1万9,400円、住民税が3万3,000円安くなっていることがわかりますね。つまり、年収300万円の人が親を扶養に入れた場合、合計で5万2,400円税金を軽減することができます。

年収500万円の人が同居の親(70歳)を扶養に入れた場合

次に、年収500万円の人が70歳の同居の親を扶養に入れる場合を考えてみましょう。これも結論から先にご紹介すると、4万8,200円の所得税が減額されます。
 

親を扶養に入れない場合の所得税 親を扶養に入れた場合の所得税
13万6,700円 8万8,500円

先ほどと同様に、所得税を計算する手順に従って、扶養に入れない場合と扶養に入れた場合の税金の金額を比較してみます。

なお、70歳以上の親は前述の「老人扶養親族」に該当しますので、先ほどよりも大きな控除を受けることができます。

・親を扶養に入れない場合の所得税
所得税の計算に必要な情報や計算結果をまとめたものが、以下の表です。詳しく見ていきましょう。

<年収500万円 親を扶養に入れない場合の所得税>

(A)収入 500万円
(B)各種所得控除 ・基礎控除
(所得税)38万円
・給与所得控除
154万円
・社会保険料控除
75万6,000円
(C)合計:268万6,000円
(D)課税所得 231万4,000円
(E)所得税額(※注) 13万6,700円

(D)の「課税所得」は、収入金額から各種控除を引いたものでした。計算をシンプルにするため、受けられる控除は「基礎控除」「給与所得控除」「社会保険料控除」に限定していますので、各種控除の合計金額は268万6,000円(C)となります。

つまり、「課税所得」は、
 

(A)500万円 - (C)268万6,000円 = (D)231万4,000円

となります。

「課税所得」が195万円以下の場合の所得税率は5%でしたが、195万円を超え330万円以下の場合は「課税所得×10%-9万7,500円」で計算されます。

したがって、「親を扶養に入れない場合の所得税額」はこのように計算できます。
 

231万4,000円 × 10% - 9万7,500円 + 復興特別税2.1% =13万6,700円

(E)所得税額は13万6,700円になります。

・親を扶養に入れた場合の所得税
次に、同じ人が“70歳の同居の親を扶養に入れた場合”で計算してみましょう。この場合、親は「老人扶養親族(同居老親等)」にあたるので58万円の扶養控除が受けられます。

<年収500万円 親を扶養に入れた場合の所得税>

(A)収入 500万円
(B)各種所得控除 ・基礎控除
38万円
・給与所得控除
154万円
・社会保険料控除
76万6,000円
・老人扶養控除(同居)
58万円
(C)合計:326万6,000円
(D)課税所得 173万4,000円
(E)所得税額 8万8,500円

「親を扶養に入れる前の課税所得」からこの58万円をさらに引いた173万4,000円が(D)「課税所得」です。

続いて所得税を計算します。親を扶養に入れた場合、課税所得が195万円以下になるので、課税所得に5%を掛け、復興特別税をプラスします。
 

173万4,000円 × 5% + 復興特別税2.1% = 8万8,500円

出てきた金額8万8,500円が(E)所得税額となります。

・住民税の計算
老人扶養親族(同居老親等)の場合、住民税の控除額は45万円です。前回のシミュレーションと同じく住民税を10%とすると、
 

45万円 × 10% = 4万5,000円

の減額が見込めます。

今回のケースでは所得税が8万8,500円、住民税が4万5,000円安くなっていることがわかります。つまり、年収500万円の人が同居の親を扶養に入れた場合、所得税の減額分4万8,200円と合わせて9万3,200円税金を軽減することができます。

「配偶者控除」との違いは?

「配偶者の収入が上がると扶養から外れる」や「パートの時間を調整して夫の扶養に入る」など、配偶者についても「扶養」という言葉が使われますよね。

同じ「扶養」という言葉が使われるので紛らわしいのですが、「扶養控除」とは子どもや両親、曽祖父などの親族を対象とするもので、実は配偶者は含まれていません。

配偶者には「配偶者控除」という別の制度があるので、混同しないように注意してください。また、婚姻関係にない事実婚のパートナーなどは、たとえ生計を一にしていても配偶者でも扶養親族でもないため、これらの控除は受けられません。

今回は扶養控除についてご紹介しましたが、配偶者控除は段階的に控除額が減っていく複雑な仕組みになっています。扶養控除と併せて押さえておきたい制度なので、詳しく知りたい場合は以下のページなどを参考にしてください。

〈詳細はこちら〉
https://fuelle.jp/bargain/detail/id=7918
https://fuelle.jp/family/detail/id=5635

扶養控除を利用して税金を安くしよう

今回は親を扶養家族に入れた場合にどのくらい税金が安くなるか、シミュレーションをしながらご紹介しました。所得税法上の扶養家族に関しては、扶養者は税金がその分安くなり、特にデメリットはありません。ただし申請しなければ控除は受けられませんので、知っているかどうかで差が出る制度と言えます。自分が利用できるかどうか、一度調べてみてはいかがでしょうか。

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松岡紀史
筑波大学経営・政策科学研究科でファイナンスを学ぶ。20代の時1年間滞在したオーストラリアで、収入は少ないながら楽しく暮らす現地の人の生活に感銘を受け、日本にも同様の生活スタイルを広めたいという想いから、 帰国後AFPを取得しライツワードFP事務所を設立。家計改善と生活の質の両立を目指し、無理のない節約やお金のかからない趣味の提案などを行っている。
筑波大学経営・政策科学研究科でファイナンスを学ぶ。20代の時1年間滞在したオーストラリアで、収入は少ないながら楽しく暮らす現地の人の生活に感銘を受け、日本にも同様の生活スタイルを広めたいという想いから、 帰国後AFPを取得しライツワードFP事務所を設立。家計改善と生活の質の両立を目指し、無理のない節約やお金のかからない趣味の提案などを行っている。

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