全12章予定だった未完の作品――埴谷雄高『死霊』
ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』の多大な影響が認められる思弁的小説『死霊』は、埴谷雄高が戦後の約半世紀を賭してなお“未完”に終わった作品です。
“未完”でありながら文学史上の傑作に数えられていることからも、その評価が高いことは間違いないのですが、作中人物によって繰り広げられる宇宙や存在の秘密、神や虚無についての形而上学的な議論は、ほとんどの読者にとってはただただ難解というほかありません。
その一方で、冗談のように大仰な言い回しのなかに奇妙なオノマトペがしばしば挿入され、過度に難解でありながら軽妙ささえ感じさせる独特すぎるダイアローグは、この小説に挑む読者を魅了してやまないものでもあります。
タイトルやテーマによってやや敬遠されがちな同作ですが、いざ読んでみると、その“ポップさ”に驚きを感じるでしょう。
日本社会の縮図でもある軍隊生活を描いた――大西巨人『神聖喜劇』
『死霊』の作者である埴谷雄高が「百歩を一万歩で歩く」と表現した手法を用いて、大戦時の軍隊内部の不条理に左翼的立場から徹底抗戦した作品が、大西巨人の『神聖喜劇』です。虚無主義者の陸軍二等兵・東堂太郎は、その超人的な記憶力を存分に駆使して、苛烈で非人道的な新兵訓練に抵抗していきます。
ある種の“ヒーローもの”としても読める『神聖喜劇』は、大西自身の体験をベースに戦争や軍隊、マルキシズムといったシリアスなテーマを扱っていながら、どこまでも痛快なユーモアに貫かれています。
主人公の東堂二等兵が、常軌を逸したマシンガントークによって論敵を圧倒していく露悪的な描写を読むにつけ、皮肉屋であればあるほど口元が緩んでしまうことでしょう。
とにかくエモい日本近現代文学
名作と名高い長編小説の特徴として、のっぴきならない切実なテーマやハイレベルな文章表現と平行して、今風に表現するならある種の“エモさ”が付随していることがあげられます。ひとりの読者としてその“エモさ”をまるごと受け止めるためには、やはりある程度の自由な時間が必要になるはずです。ぜひ学生時代のうちに体験してみてはいかがでしょうか。
提供・UpU
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