横浜流星主演の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合)に出演する寺田心は、声の俳優として振る舞っているように見える。

NHK『べらぼう』© NHK
『べらぼう』© NHK
 彼が持つ中音域が、葛藤するキャラクター性を明確かつ絶妙に表現しているのである。それによってかつての天才子役が、新たなビジョンを提示しているように思うのだ。

 男性俳優の演技を独自視点で分析するコラムニスト・加賀谷健が、本作の寺田心について、子役時代からの最大の変化を解説する。

◆気づけば現在16歳の寺田心

『べらぼう』© NHK
 2011年、寺田心は3歳で芸能活動を開始した。大きな注目を集めるきっかけは、TOTOの便器「ネオレスト」のCM(2015年)である。“トイレに潜む菌”のキャラクターを演じ、見ているこちらが思わず襟を正す、恐るべき天才子役ぶりを印象付けた。

 以来、天才子役・寺田心はテレビの世界で引っ張りだこになる。大人相手に聡明な態度でタレント性を発揮する寺田が、どんな風に成長していくものかと思っていたが、気づけば現在16歳。

 天才子役時代に落ち着いた佇まいを醸していたためか、今は逆に年相応の少年らしさを慎ましくたたえている。かつての天才子がナチュラルで端正な新たなビジョンを提示している。

◆子役時代からの最大の変化

 その魅力は、まず変声期を経たことで醸されているように思う。声は、子役時代からの最大の変化である。それが目に見えてあざやかに感じられたのが、声優として声を吹き込んだアニメーション作品『屋根裏のラジャー』(2023年)だ。

“イマジナリ”と呼ばれるイマジナリーフレンドの主人公・ラジャーを演じた。寺田は、中音域を揺れ動き、低音とも高音ともつかない微妙な音の偏差によって、想像上のキャラクターにリアリティを持たせている。

 かつての天才子役の芸の細やかさが、こうして声だけで表現する役に結実した。ラジャー役を声優として演じたことは、基本的には中音域やや低めに位置する寺田固有の声域を際立たせる表現が確立されたことを意味している。