◆酒で気が大きくなって、買う

酔って夜中に馬を放ち、近隣の田畑をめちゃくちゃにする。酔ったまま仕事に出かけ(飲酒運転の取り締まりがゆるい時代だった)、田んぼのあぜ道で脱輪して稲をつぶす。そうしたやらかしに加え、家族がいちばん困ったのが冒頭のセールスだ。

親子三代勧誘沼202310
「いつも酔っていて、気が大きくなっている」「金に糸目をつけず、大物を買ってくれる太客」――業者のあいだでそんな情報が出回っていたのかもしれない。珠江さんの家の客間には、さまざまな訪問販売のセールスマンがいつも居座っていた。

ネットもなく個人情報という概念も怪しかった昭和の時代。訪問販売は、いまよりずっと一般的な商法だっただろう(もちろん、いまでも存在する)。化粧品に教材、百科事典、布団やハンコ、調理器具。一定の年齢以上は、何かしら訪問販売にまつわる思い出があるかもしれない。