◆描かれなかった時間を想像すると…
そんな源内に、男たちは、体にも心にも、あまりにひどい傷を負わせたのである。それからしばしの間をおいて、源内は、大奥にいつも通りの明るさでやってきた。しかし、その体には、顔に“できもの”のある男が残した置き土産が刻まれていた。
このとき源内は、皆の前に、改良した針を手に普段通りのテンションで現れた。何事もなかったかのように。あの夜、傷を負ったあとからの源内はどうしていたのだろう。描かれなかった時間を思い、苦しくなった。
第13回では、いよいよ赤面疱瘡撲滅に向けた「人痘接種」が始まるが、その反発は予想以上に大きかった。
<文/望月ふみ>
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi