◆「ありがとう」感謝だけを口にした御台所
ひとつの目的のために皆で協力して進む空間には、身分の上下や、損得勘定、足の引っ張り合いといったものが見えず、陽の気に溢れて見えた。そんななか、五十宮が「ありがとう」の言葉を青沼に残し、病で命を落とす。
蘭学の講義、皆との時間、赤面を駆逐するという高い志が、自分の心に空いた隙間を埋めてくれたと感謝して。
その際、将軍の御台所だからこそ背負ってきた思いが、自身の口から語られたのだが、「虚しさなんてどこへやら」というほど「楽しかったから」こそ、今みなと別れることは少なからず無念だったに違いない。
それでも五十宮は、その無念は胸に、「ありがとう」の感謝だけを口にした。もちろん、すべてを上回る「ありがとう」があったからには違いないが、そこに至るには、いくばくかの時はあったはず。その重さを仲間たちは受け止め、本気になった。
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