それが単にスベっているだけならまだいいんですけど、このドラマは「綿密な取材」を公言しているわけですよ。震災について取材を受けた関西の人たちが、このシーンを見て笑うかね? 取材に協力してよかったって思うかね? 私たちのことを理解してくれたと思うのかね? そういうことを考えると、こっちも胸が痛むんですよ。

 だいたいこのアパートは十三だそうですけど、作ってる人たちは実際に十三に行ったのかしら。路線図だけ見て、乗り換えに便利そうという理由だけで選んでないかしら。若い主人公2人が暮らし始める町として相応しいと思ったのかしら。ピンクネオンが溢れかえり、昼も夜もローション入りのカバンを下げたお姉さんたちが行き交う、俺たちが大好きな歓楽街を。

 そして、2人の幸せな生活が描かれるわけですが、結(橋本環奈)の手料理を翔也(佐野勇斗)が食べるシーンはこのドラマでは初めての登場になるわけです。「ごはん付いてるよ、うそぴょん!」みたいに楽しそうにハシャいでいる2人も初登場。こんな翔也、見たことない。連続ドラマが連続していない。しかもそういう重要なシーンをチャチャッとナレーションベースで流していく。もう、ここまでで何を描いて、何を描いていないかも覚えてないんだろうな。

 オープニング前だけでこのありさまです。今週も荒れそうだね。

不幸がないと話が進まない

 楽しそうな暮らしから一転、結さんは体調が悪そうです。

 ハギャレンと友達になったのは、スズリンの栄養失調がきっかけでした。パラショーに出る決意を固めた経緯は、ルーリーのネグレクトと深夜徘徊でしたね。翔也との距離を縮めたのは、結が過労で倒れた場面でした。翔也が肩を壊したことで結婚に進みました。いつだって『おむすび』は、話の展開に人の不幸を利用します。

 これ、結という人がドラマの中で前に進んでいない何よりの証拠なんです。

 大まかに言って、物語というのは「主人公が前に進む」「壁が現れる」「壁を乗り越えて成長する」というプロセスをたどるものですが、結という人がここまで成長していない、新たな価値観や思想を獲得していないため、物語を展開させるためにはマイナス方向に振っていくしかないんですね。