なぜ、宮崎監督は都市伝説とつながりが深いのでしょうか? その秘密は創作スタイルにあるようです。2023年12月に放送されたドキュメンタリー番組『プロフェッショナル 仕事の流儀 ジブリと宮崎駿の2399日』(NHK総合)で、宮崎監督は絵コンテを描く際に「脳みそのフタが開く」と語っています。フタが開かないと、面白いものにならないそうです。
脳みそのフタが開く、とは独特の言い回しですが、宮崎監督は自分の記憶や知識だけではなく、無意識レベルの潜在意識まで総動員して絵コンテを描いているようです。フタを開けると、「パンドラの箱」のように善きものだけでなく、魑魅魍魎まで飛び出してくるのではないでしょうか。
宮崎監督の潜在意識は、ユング心理学で言うところの人類の集合的無意識ともつながっており、そうしたものがアニメーションという表現形態として吹き出しているように感じます。理屈のみで宮崎作品を理解しようとしても、それは不可能なんだと思います。
ソフィーの「呪い」は解けたのかという謎
ソフィーが老女になった呪いは最終的にはどうなったのか、気になってモヤモヤしてしまう人もいるかもしれません。この「呪いは解けたのか?」という曖昧なエンディングは、宮崎アニメ全体に言えることです。『もののけ姫』ではアシタカの腕に残った呪いのアザは薄くなっただけで、完全には消えていません。『千と千尋の神隠し』の千尋の両親はブタから人間の姿に戻りますが、両親がブタのように欲望のままに生きる人間であることは変わりません。そして、ソフィーは顔や体は若返りますが、髪は銀髪のままです。
元々、ソフィーは呪いを掛けられる前から、自分の容姿に自信がなく、自宅に引きこもるように暮らしていました。自分から呪いをかけているような状態だったのです。逆に90歳の老女になったことで開き直り、自分の意見をズバズバ言えるようになります。
結局のところ、宮崎アニメにおいては「呪いが解けたかどうか」はさほど重要ではなく、さまざまな呪いを生み出す不条理な現実社会に対し、主人公がどう向き合って生きていくのかを宮崎監督は描いているのだと思います。