スタジオジブリ制作の『ハウルの動く城』は、東映アニメの新鋭アニメーターだった細田守監督を招き、英国へのロケハンや絵コンテづくりなどの準備が進んでいたことが知られています。残念なことに、細田監督はジブリの雰囲気になじめずに、途中降板しています。

 ジブリのアニメーターはみんな手練れのベテランばかりで、外部から招かれた細田監督はうまく能力を発揮できなかったようです。当時の細田監督は30代前半でした。細田監督には、ジブリが魔宮のように感じられたのではないでしょうか。もっと年季を重ね、ソフィーのように図々しくなっていれば、違った結果になっていたかもしれません。

 現代社会では、いつまでも若々しくあることがもてはやされていますが、年老いることの長所が『ハウルの動く城』では描かれています。世間とは異なる価値観を面白くアニメ化できたのは、宮崎監督だからこそなのかもしれません。

集団的無意識とつながる宮崎駿ワールド

 宮崎監督といえば、都市伝説と親和性が高いことでもおなじみです。次作『崖の上のポニョ』(2008年)は人面魚、メガヒット作『もののけ姫』(1997年)はオオカミに育てられた野生の少女を題材にしています。前作『千と千尋の神隠し』(2001年)には実話系怪談「きさらぎ駅」を思わせる駅が登場し、名作『となりのトトロ』(1988年)は「狭山事件」をモチーフにしているのでは、とささやかれています。

 とりわけ都市伝説好きな人の目に留まったのは、『ハウルの動く城』に登場する「ゴム人間」です。ゴムのようにブヨブヨし、見える人にしか見えません。魔力の高い魔女の命令に従って、ソフィーやハウルに襲いかかる不気味なクリーチャーです。

 ゴム人間の話題が広まったのは、2003年に放映された『ダウンタウンDX』(日本テレビ系)がきっかけだと言われています。俳優の的場浩司や石坂浩二が「ゴム人間を見た」と語り、2007年には東京スポーツ新聞が明治神宮の参拝に向かうゴム人間の後ろ姿をスクープ撮影しています。その後も、ゴム人間はネット上を賑わせるミーム的存在となっています。2004年公開の『ハウルの動く城』にゴム人間を登場させた宮崎監督の反応の速さには驚くばかりです。