伴野 嫁さらいという言葉には暴力的な響きがありますが、環境に応じ、工夫されて生まれてきた風習でもあると思うんです。ただし、それは圧倒的に女性の犠牲の上に成り立ってきた。
作品を観ると、モン族の人たちは代々質素な暮らしを続けていることが分かります。嫁さらい婚なら、男性側はお金がなくても、イケメンでなくても、行動力さえあれば嫁を手にいれることができた。
そうやってモン族は子孫を残してきた。ジーの母親も祖母も、さらわれて結婚しています。しかし、若いジーの世代になると、スマホを通じて外の社会とも繋がり、また教育の充実もあり、嫁さらいは女性の人権を侵害していることが表面化してくる。
本作では描かれていませんが、ジエム監督がジーたちを取材している間、村では同じようにさらわれた女の子がレイプされたり、殺されてしまったという事件も起きています。僕らが想像するより恐ろしい現実があるわけです。
一方で、嫁さらいの風習を否定することは、山奥で暮らすモン族社会そのものが消滅してしまう可能性をも示唆します。これまで女性の犠牲の上に成り立ってきた社会が成り立たなくなるからです。
モン族と日本社会との意外な共通点
――日本では、親が決めた相手と「見合い」して結婚するケースが昭和時代までは多かった。また、かつては「夜這い」という風習が全国各地で行われていた。現代は交際相手をネット上で探す「マッチングアプリ」が人気を呼んでいる。ネット文化がそれまでの結婚の在り方を大きく変えたという点においては、山奥で暮らすモン族も日本人も似たような状況ではないかと伴野氏は指摘する。
伴野 マッチングアプリは手軽さから多くの人が利用するようになりましたが、逆にそのせいで結婚できない人も増えているように思います。マッチングアプリでは、経済状況や容姿などが問われ、そうした条件に恵まれた人でないと選ばれません。
条件を満たした人でも、『もっといい相手が見つかるかもしれない』と考え、結婚に踏み切れずにいる人もいるんじゃないでしょうか。本作は山岳民族の内情を追ったドキュメンタリーですが、まったく別世界の出来事ではなく、日本での結婚の在り方についても考えさせる内容だと思います。