スマホが浸透したことで、伝統的な社会はその在り方を否応なしに更新されることに。14歳になり、急に大人びた化粧をするようになったジーをロックオンしたのは、同世代の少年・ヴァンだった。SNSでメッセージを交換した後、ヴァンはジーを自宅へと連れていく。
だが、さらわれたジーは結婚に同意しない。ジーは学校で勉強を続けたいし、「嫁さらい」で母をさらった父は酒ばかり飲んで、母だけを働かせているという結婚の現実を知っている。自分も同じような将来を辿りたいとは思わない。頑ななジーの抵抗に遭い、この嫁さらい婚は暗礁に乗り上げてしまう。基本的に嫁さらいには親は介入できないのだが、双方の家族、親族、学校も巻き込んだ騒動になっていく。
山岳民族独自の環境から生まれた風習
――嫁さらい婚の実情に迫った本作は、ベトナムで大きな反響を呼び、各国の国際映画祭にも出品され、アムステルダム国際映画祭最優秀監督賞など多くの賞を受賞している。アジアのドキュメンタリー作品に精通している伴野氏に、『霧の中の子どもたち』の面白さをより詳しくレクチャーしてもらおう。
伴野 モン族は東南アジア一帯で暮らす少数民族で、中国ではミャオ族と呼ばれています。アジアンドキュメンタリーズでは『ミャオ族の聖歌隊』も配信しており、こちらもぜひ観て欲しい作品です。
僕が『霧の中の子どもたち』の中で面白く感じたことのひとつが、山奥での昔ながらの社会にもスマホがすでに浸透し、SNSなどが普通に使われているところです。伝統的な風習が残る暮らしと、スマホによるネット文化が並行して存在している。それまでの伝統的な生活は、新しい文化が入ってくることで崩壊が始まっているわけです。その様子が克明に描かれています」
「嫁さらい」婚というパワーワードもあり、『霧の中の子どもたち』はアジアンドキュメンタリーズの配信作品の中でも注目度が高いという。