野球部の指導者は立っているだけで何もしません。そもそも、キャッチャーが翔也に「肩が痛いの、気づいてるぞ」と言った夜、その日には昼間が存在しないのです。もう肩が上がらないのだから、昼の練習でチーム全員が「翔也、肩が上がってない」と気づくはずです。エースってそういう存在でしょう。

 日常がないから、そこに起こる事件の位置づけが伝わってこない。その事件で誰の心がどう動いたのかも伝わってこない。誰にも共感できない。冒頭のナベさんの話もそうです。あの防災訓練の後、ナベさんの生活がどう変わったかを描くことで、私たちも回復していく被災者に心を寄せることができるし、そこを描いて初めて結がやったことの価値もわかってくるわけです。

 加えて、ドラマそのものの社会常識の欠如も悩ましいところです。今回でいえば、陽太の出張宿泊費の件もそうだし、結が星河に就職するまでのプロセスや社食の研修システムの不備、大学野球2年連続本塁打王・大河内の社会人野球入りという不可解な進路、そういった要素がとことん社会常識とかけ離れているので、その世界の中で起こるさまざまな事件やトラブルの深刻さが伝わってこないのです。

 ここまで、この原稿は約3,000文字。結さんの話はひとつもしていませんね。たった15分で、周辺だけでこれだけ書くことがあるって、それはそれですごい作品なのかもね。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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