思い出したのは、映画『キッズ・リターン』(96)でモロ師岡が演じていた先輩ボクサー・ハヤシです。必死に練習している主人公のシンジ(安藤政信)に中華屋でビールを飲ませ、タバコを勧めてくる。「いいんだよ、別によ」。まさに堕落の象徴。人をダメにする魔の手そのもの。このハヤシの影響を受けて、シンジも選手として凋落の一途をたどっていきます。
それと同じことが、今ここで行われているわけです。
いよいよ酒が進んだアユは、手下どもを連れ立って踊り始めました。乱痴気パーティーの始まりです。繰り返しますが、昼間です。
大音響と飛び交うカクテル光線、その中で行われている異様な集団舞踊に吸い寄せられるように、翔也も立ち上がりました。その顔には、笑みがこぼれ始めます。シャンパンに何か、よくない成分が含まれていたのかもしれません。
健全な視聴者諸氏は、画面のこちらから叫んだはずです。
「踊るな、翔也! おまえは肩が……!」
そんな私たちの願いをよそに、翔也は悪魔集団に取り込まれてしまいました。
「もっとほら、手を上げて!」
教祖アユが本格的に、この若者の未来を壊しにかかります。鬼です。悪魔ですよ。
重度の右肩関節唇損傷および右肩腱板損傷。日常生活すらままならないほどの痛みに苦しんでいるはずの翔也が、笑いながらブンブンと右腕を振り回している地獄絵図。軋んで悲鳴を上げる右肩関節唇および腱板。終わりだ、全部終わりだ、翔也、翔也ァ……!
一方そのころ
一方そのころ、翔也が悪魔に食われていることなど知る由もない結さんは糸島でのんびり休暇中。こちらも昼間からスナックに入り浸り、焼酎を片手にジジババとのろけ話に花を咲かせていましたとさ。
どいつもこいつも昼間から飲んだくれているし、そもそも『おむすび』において、つらいことを忘れる方法は酒じゃなくて「おいしいものを食べる」んじゃなかったけ? という大義名分はもはやどうでもいいとして、今回の展開には驚きました。