――アメリカ人から君主のあり方について学ぶというのは斬新ですね!
堀江 昭和天皇がアメリカからやってきた教育施設団に感銘を受け、国際的な視野を持つ将来の天皇を育成したいと考えた末の人選だったといわれています。
いちおう名目としては英語の個人授業だったようですが、ヴァイニングは上皇さまに自身の意思を明確にすること。そして、憲法を遵守し、国民とともに存在する近代的な君主像……つまり象徴天皇として生きていくための心構えを、長い立憲君主制の歴史を持つイギリス王室などを例にとって伝えたとされています。
――へー知りませんでした。たしか、イギリス王室のエリザベス2世も、子どもの頃からほかの学科は二の次で、憲法を個人授業で叩き込まれて育ったといわれますよね。
堀江 そうなんです。熱烈な君主主義者の多いイギリスではなく、アメリカ人の女性を教師にすることで、中立的な視野が獲得できると昭和天皇は考えたのかもしれません。
ヴァイニングの任期は1年の予定でしたが、彼女は人柄も良いので、学習院中等科の英語教師として大人気となり、足掛け4年あまりの日本滞在となりました。
――ヴァイニング夫人がアメリカに帰国後、上皇さまは新設された学習院大の政治学科にご進学となったわけですね。
堀江 しかし、上皇さまは公務のせいで進級に必要な出席日数が足りず、それこそ皇族としての特権というか、見逃しも受けることができず、このままでは留年してしまう……となった時、なんと大学を退学なさってるんですね。
――ええっ?
堀江 中退より留年のほうが問題視されるという価値観は、現代人のわれわれにはないかもしれません。上皇さまはその後、聴講生として、大学卒業までのカリキュラムを学習院大で修了なさったので、宮内庁のホームページには「学習院大学教育ご修了」という記述になっていますね。
現・天皇陛下の「帝王教育」は学習院高等科時代から
――となると、学習院大学に入学、そして正式な形で卒業なさった最初の天皇は現・天皇陛下ということになりますか?