本作はほとんどが実話に基づいているが、ピーターに偽名を告げ、彼の受賞を街角でそっと見守るマンソプというラストは、作り手の温かな想像力によるものであり、映画の最後では再会がかなわないままヒンツペーター氏が他界した事実が語られていた。

 ところが、映画の公開後にキム・サボク氏の息子と名乗る人物が現れたことによって、サボク氏の消息が明らかになったのだ。息子によると、実際のサボク氏はマンソプのような庶民派運転手ではなく、外国人相手の観光ガイドを専門にしていた「ホテルタクシー」の経営者であり、早くから政治活動に参加、光州にも強い使命感を持って向かった人であることがわかった。

 そして、光州事件から4年後の84年、すでにがんで亡くなっていたことも。ヒンツペーター氏が必死でサボク氏を探していた時、彼はもうこの世に存在していなかったのだ。

 この報道を聞いて、私は少しばかりがっかりしてしまった。マンソプのようなキャラクターを期待していたのに、実はそんな「エラい」人だったのかと。だがそれと同時に、映画の力を実感したのも事実である。

 タクシー運転手の正体がわからなかったことで、ソン・ガンホ演じるマンソプが誕生し、彼だったからこそ多くの観客が映画に惹きつけられたのだから。本作が韓国国内に限らず、日本をはじめ外国でもヒットした要因もそこにあるに違いない。本作はこれからも末長く愛されてしかるべき映画だと思う。

『タクシー運転手 約束は海を越えて』
発売元:クロックワークス 販売元:TCエンタテインメント
提供:クロックワークス/博報堂DYミュージック&ピクチャーズ
Blu-ray  5,184円(税込) / DVD 4,104円(税込)

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