入学祝いに、重量のあるキッチンばさみとはめずらしい。ひとり暮らしの実用品にと思ったのか、「未来を切り開いてほしい」と思ったか(最近はそういう解釈もあるらしい)。Aさんの意図は不明だが、個人的には母とマルチの縁を切る道具として活躍してほしい。
はさみはその後、別のタイミングで同じものが2回送られてきたという。ライオさん曰く、ここにもマルチ商法の特徴が表れているという。アップが作業的に自分のチームを“ケア”している感が、にじみ出ているのだ。
「当時、送ってきたことも覚えていないんだろうと感じましたね。活動の一環としての定番の贈り物であって、お祝いの気持ちは微塵(みじん)もないのだろうと」
◆なし崩し的に勧誘の場へ
ライオさんへの直接的な勧誘は、とある会食のときだった。ライオさんは、大学2年生になっていた。
「僕と母、母の友人。3人で会食することになったんですよね。すると食後、『もうひとつ予定があるの!』と不意打ちで、Aの夫の職場であるクリニックに連れていかれました」
クリニック待合室の椅子に座る3人。さらに周りには、会員らしき人たち数名が横並びに座っていた。そして頭上のモニターで、マルチ商法を紹介する動画が流れてくるのを視聴する時間。権利収入がいかに大切で、マルチ商法で財産を築くことができる!という内容だった。
「あーこういう感じなのか……と思うと同時に、気持ちわるっ!となりましたね。動画を視聴したあとは、Aさんのプレゼンタイムにつづいて、ひとりずつ感想や夢を語らせられる時間となりました。その後強引に会員にならされるなどはありませんでしたが。
ちなみに、A夫妻の家の近くに偶然知人がいるのですが、その近所ではA夫婦を中心としたコミュニティは、マルチ村と呼ばれているそうです」
◆息子の友人、妻もターゲット
それ以外でも、母は隙あらばライオさんの周辺に目をつける。大学時代は、友人を実家に誘うよう呼びかけられた。目的が見え見えなので、当然断る。