そして最後にとってつけたように、就職おめでとう、子ども生まれておめでとう。祝う気持ちじゃなくて、自分の大切なものと自分の正しさをわかってほしいという気持ちなんですよね。それって手紙なのか?ただのマルチ情報ですよ」
◆母を否定できない
母は、ライオさん以外の家族(元夫、長男、長女、元義父母)からマルチ商法を否定されているので、唯一穏やかに接してくれる末っ子のライオさんにすがっている部分もありそうだ。
「あなただけはわかってくれるわよね、という無言の圧力をすごく感じていました。すぐに暴走するから、否定するの、怖いですよ。それこそ自死されたらどうしよう、とか。
拒否されることが多いからですかね。はっきりと拒絶する以外は、すべて肯定だと受け取るんです」
母方の故・祖父は、次々とマルチ商法の健康グッズを買い込んでくる娘(ライオさん母)を黙って見守っていたという。否定も肯定もしなかった。
それが、母のなかで都合よく脳内変換されるのも、ライオさんは苦々しく見ていた。
「祖父が、マルチ商法をがんばってるっていつも言ってくれていた!…母はずっと言うんです。でも祖父がそんなことを言っているのは、誰も聞いていない。ずっとうんうん聞いていただけのこと。
そういう家族がいると、まわりも本当に病んでいきます。僕はいま、似たような立場の人たちの話を聞く活動をしていますが、思い出したくもないという人がほとんどです。身内にマルチ会員がいると、恥ずかしくなる。隠したくなる。だから被害が表に出にくいということもあるでしょうね」
◆理解されにくい2世の苦しみ
2021年に『妻がマルチ商法にハマって家庭崩壊した僕の話。』(ポプラ社/ズュータン著)という本が出版された。それを読んだときも、「まるで自分のことが書いてあるかと驚いた」とライオさんは話す。
マルチ商法にハマり、話が通じなくなってしまう家族。ところが当の本人は「家族の幸せ」「家族の健康」が動機の部分も多く、そうなると家族も憎み切れない。