――日比野さんにとって小説とは。
日比野:私にとっての小説とは、“言葉のタンク”であり、肺や肝臓といったような、自分の器官のひとつでもある。それは私が小説という手段を選んで、それを信じているからでもあるけど、音楽や映画やほかの手法と比べても、小説がもっとも自由な表現手段だと思っていて。小説は、どんな人のことも受け止めることができるし、すべてのことを実現できると信じています。もしできないことがあるとしたら、それは私の実力不足でしかないなって。
たとえば、音楽やお笑い、においなんかを小説で表すことだって、先人の作家たちがとてもうまくやってのけています。
――日比野さんが、小説をそこまで信じられる理由は。
日比野:理由はいろいろあるんですが、「なぜ小説を書くようになったのか」の話につながるかもしれません。誰も、私の話を聞いてくれなかったんですよね。幼少期から、今では段ボール箱がいっぱいになるくらいある無印ノートに小説を書いていたんですが、家族なんかにに「読んで」と言っても誰も見向きもしてくれなくて。口で何かを伝えるのが苦手だったから「小説でやろう」という意識があるのかもしれません。
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