悪人側の視点で描かれたアートアニメ
エマ・ワトソン主演の『コロニア』(15)では、パウル・シェーファーが長きにわたってチリに君臨したピノチェト独裁政権と結び付き、反政府支持者たちはコロニアの地下室へ送り込まれ、拷問や洗脳に遭っていたことが描かれていた。今年6月に公開された『コロニアの子供たち』も、シェーファーがかわいい男の子たちをグルーミングし、性行為の対象にしていたなど、被害者たちの証言をもとにした劇映画となっている。チリの歴史を多少でも知っておくと、『オオカミの家』と『骨』はより興味を持って楽しめるだろう。
2022年からチリ大学に客員研究員として留学し、ラテンアメリカ映画の研究をする新谷和輝(にいや・かずき)氏に、作品の政治的背景やレオン&コシーニャについて語ってもらった。
新谷「僕はアニメーションは専門ではありませんが、レオン&コシーニャによる『オオカミの家』は今まで見たことのないタイプの珍しいアニメーションだなと感じました。シュールな作風は、チェコのアニメーション作家ヤン・シュヴァンクマイエルを思わせることはよく指摘されています。レオン&コシーニャは、デヴィッド・リンチ監督からも影響を受けたと語っています。『オオカミの家』は、コロニア・ディグニダのプロパガンダ映画として製作されたという設定もユニークです。つまり、パウル・シェーファーの視点から描かれた世界でもあるんです。悪人側の視点から描かれたアニメーションというのは、かなり珍しいのではないでしょうか」
主人公のマリアは、かわいがっていた子豚たちを自分好みの少年少女として育てようとする。コロニアの閉ざされた世界しか知らないマリアは、自分が受けたマインドコントロールのノウハウを無意識のうちに子豚の飼育に使おうとする。カルトとは決して特別なものではなく、どんな環境でも起きうることが分かる。