ちさともまひろも、それまでの刹那的な生き方を改め、愛すべきパートナーとの日常生活を重視することになります。大きな心境の変化です。上映時間58分ながら、興収20億円ごえの大ヒットとなった劇場アニメ『ルックバック』(Amazon Primeにて配信中)と共に、2024年を象徴するシスターフッドものになったのではないでしょうか。
アルバイト感覚で人殺し業に従事してきたちさまひコンビですが、「新しい戦前」と呼ばれるほど現実社会はますます酷い状況となり、闇バイトが横行し、目先の大金に釣られた犯罪事件が多発しています。世界情勢も混沌としたままですが、ちさまひは自分たちを意識的に変えていき、将来について考えるようになります。親ガチャ、国ガチャ、時代ガチャのせいにしていては、いつまでも自分自身の進むべき道は始まらないからです。
その第一歩が、自分らで身辺調査を行った上で、社員を自殺に追い込んだパワハラ社長(浜野謙太)をあの世送りにするという新規案件でした。まひろの監査部、ちさとの営業部での体験が役立ちました。これまでの請負仕事に比べ、時間はかかり、収入は減りますが、自分たちが納得した上で、悪いヤツをぶっ殺すことができます。現代の「必殺仕事人」の誕生です。まさかの大団円で『ベビエブ』はフィナーレを迎えることになりました。
第7話以降、ちさまひの2人にはずっと「死亡フラグ」が立った状態でした。スーザン・サランドンとジーナ・ディビスが共演したハリウッド映画『テルマ&ルイーズ』(1991年)のような衝撃的なエンディングになることを予測した人もいたでしょう。阪元監督も悩んだと思います。『テルマ&ルイーズ』やタランティーノ脚本作『トゥルー・ロマンス』(1993年)の本来のエンディングのような終わり方にすれば、ドラマ史に永遠に残る伝説にちさまひコンビはなっていたはずです。
でも、阪元監督はちさまひを伝説にすることよりも、日常生活を生きるという道を選びました。まひろが「粛清さん」こと日野に「生きていてほしい」と伝えたように、阪元監督もちさまひに「生きていてほしい」と脚本を書きながら願ったんだと思います。