──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ
『光る君へ』、前回・第44回「望月の夜」のハイライトといえば、やはり藤原道長(柄本佑さん)が自分の娘たち3人で天皇家の三后のポストを独占し、それを祝う宴の中で「この世をば 我が世とぞ思ふ望月の 欠けたることも なしと思へば」という歌が詠まれたシーンだったでしょうか。
しかし、それも一同が声を揃えて呪文のように唱えるだけの謎演出で、華やかというより不気味に終わり、あまりの肩透かしにガッカリしてしまいました。
現在でも皇室の新年行事のひとつに「歌会始」がありますが、披露される歌には独特の節を付け、朗唱されることをご存知の方もおられるでしょう。これを「披講(ひこう)」と呼び、和歌の流派ごとにさまざまな様式が存在しています。
道長が生きた平安時代後期、どのような節回しで披講が行われていたかはよくわかっていませんが、史実の「望月の夜」の宴で詠まれた「この世をば」の歌を皆で唱和したという場面は、ドラマのように薄暗がりから響く暗黒魔法の集団詠唱のごとく不気味な印象では決してなかったでしょう。
ドラマの宴は、道長の嫡男・頼通(渡邊圭祐さん)が新しく摂政(幼少もしくは病中の天皇に代わって政治を執る役職)になったことも祝う趣向でしたね。これは道長が頼通に摂政の座を譲ったからなのですが、約1年間も本作を見続けてきた者としては、ついこの前まで「まひろとの約束」と称し、「政治の頂点に立ち、この国を変えてやる」と意気込んでいたはずの道長が実にあっさりと朝廷政治のトップの官職を手放す展開には拍子抜けでした。
満月を見上げる道長とまひろ(吉高由里子さん)が、かつて廃屋で密会した日の夜空の月を思い出していたので、「少女漫画的」という感想もありましたが、この二人も煮えきらぬうちに終わってしまうようですね。