◆何よりも尊く感じる関係性

 中途半端になぐさめることもない。ゆくえがリビングの椿にさっと視線を遣る。普段はぼおっとりしているかに見えて、わかるときはわかる椿。ゆくえの意図をちゃんと察して、紅葉を誘って飲みに出かける。

 ゆくえと夜々がふたりになる。お腹が空いていないか確認し、夜々のために残しておいたピザをレンジで温める。食卓テーブルについた夜々が語りだす。

 ゆくえはキッチンでたたずみ、静かに耳を澄ませる。リビングとの距離感が素晴らしい。夜々が悩んできた性差についての会話場面は静かだが、濃密な人間ドラマがこの空間に立ち上がる。

 話しているうちに泣き始める夜々のほうへ、ゆくえが振り返る。そして気づけば、ゆくえがリビングにいて、夜々の隣に座っている。

 その後、帰宅途中のゆくえと夜々が、バスに揺られるツーショットがまたいい。ゆくえの空気に抱かれるように夜々は安心しきっている。

 春木家からバス車内へ。この移動中、彼らの関係性は、男女の友情問題を考えるより難しいなと思った。難しく、独特な空気感だが、何よりも尊く感じるものだなと。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】

音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu