さて次回も道長と三条天皇の対決が続きそうですが、そろそろ天皇の退位と崩御が近づいてきているようです。ドラマの三条天皇は体調不良でもあくまで強気を貫き、道長との対決を続けていますが、史実の三条天皇は鋼のメンタルの持ち主ではありません。

 たとえば、「月を見上げる」という行為ひとつとっても、「この世」は「わが世」だと断言して得意満面の道長に対し、史実の三条天皇は

「心にも あらでうき世に ながらへば 恋しかるべき 夜半の月かな」

という実に寂しい歌を詠んだことで知られています。

 鎌倉時代の歌人・藤原定家の手で『小倉百人一首』にも入れられた名歌ですが、いつ、どのような背景で詠まれたかは不明です。まだ天皇の目が見えていた時代のことでしょうか。

「我が意に反して長生きしてしまったのなら、今宵の美しい月のことをずっと恋しく思い出すでしょう」という意味で、おそらく月を一緒に見ている相手との関係の終焉も匂わされ、そこはかとない悲壮感が漂っています。

「長生きなんて憂鬱」というのは当時の歌詠み特有の「平安貴族しぐさ」ではあるのですが、『大鏡』などには、虚弱体質であることを気にした三条天皇が「金液丹」という水銀を含有した「薬」を強壮剤として飲み続け、最終的には失明した説が書かれています。真偽不明の逸話ですが、そういう背景を知る現代人だからこそ、天皇のお歌に漂う「帝王」らしからぬ内省感には心打たれるものがありますね。

 三条天皇と道長の争いは、政治的には道長の圧勝に終わりましたが、和歌では天皇のほうが、道長などより「この世」だけでなく「人間」という寄る辺なき存在についても深い理解を示せているのは明らかです。

 ドラマの三条天皇に話を戻しましょう。

 前回のドラマの三条天皇も「宋から取り寄せた薬」として、黒っぽい錠剤を口にしている姿がありました。史実の三条天皇が服用していたといわれる「金液丹」がどのような形態だったかは定かではありませんが、もともと常用すると危険な劇薬とされており(当時の宮廷の医薬書『医心方』)、逆に天皇が体調を崩し、早期退位することを期待した道長が与え続けた可能性もなきにしもあらず、と疑う筆者でした。まぁ、ドラマの天皇ならば、道長からもらった薬など絶対に飲もうとはしないでしょうが……。