少し前に、妻夫木聡さんの主演で映画化もされたので、記憶している方もおられるかもしれませんが、実はあれは三島が縁がなかった美智子さまへの思いをこじらせた末に生まれた物語なのだ……というのが、三島家による公式情報のようです。

――三島由紀夫って自分が組織していた私兵集団「楯の会」にもボーイフレンドがいたという話も聞いたことがあるし、どっちかというと女性より男性に惹かれる人じゃないかと思い込んでいました……。

堀江 少年時代の三島は虚弱でガリガリだったのですが、そのコンプレックスを成人後にボディビルや剣道などのスポーツに取り組むことで晴らそうとしたのは有名ですよね。そういう「男性性」への憧れが、同性への接近にもつながったのでしょうし、実際に『春の雪』でも絶世の美男子として描かれる主人公・松枝清顕と、彼の親友・本田繁邦の関係にはボーイズラブっぽい部分があります。

 ただ、三島が「男性性」に執着する人であればこそ、それを際立たせる存在としての異性――つまり女性との恋愛や結婚にこだわっても、不思議はないとも思われるのですね。

聖心女子大が美智子さまを三島由紀夫に“おすすめ”

――三島は美智子さまとはどんな出会い方をしたと言っているんですか?

堀江 昭和のころは、しかるべき大学にお見合い相手の紹介を依頼することがありました。実は三島由紀夫には聖心女子大の卒業生の女性に強いこだわりがあり、「条件にあう女性がいたら紹介してほしい」と大学に依頼していた上、母・倭文重といっしょに「なぜか」美智子さまの代の卒業式を見学したこともあったのですね(村松剛『三島由紀夫の世界』)。

 昭和33年(1958年)2月、聖心女子大から三島家(平岡家)に当時33歳だった三島のお見合い相手として、大学を卒業したばかりの美智子さまをおすすめするという「釣書(見合い用の書類)」が届きました。その「英会話に堪能、テニス、ピアノを得意とするほか、文章を書くことも好きである」という美智子さまの説明だけで、三島はビビビと来てしまったのです。