対して、今回の『らんまん』が面白いのは、朝ドラヒロインの優等生的な振る舞いを男性主人公の万太郎がおこなっていることだ。逆に、従来なら朝ドラヒロインにあたる万太郎の妻・寿恵子(浜辺美波)は、万太郎の夢を支える良妻賢母だが、同時に商売の才能を持った社交性のある大人の女性として描かれている。また、彼女は「南総里見八犬伝」を愛読し、作者の滝沢馬琴を尊敬するオタクとしても描かれており、このオタク性が時々滲み出ることが、寿恵子の魅力となっていた。
1961年からスタートした朝ドラのほとんどは、女性が主人公のドラマだったが、男性主人公の朝ドラに挑戦する試みは何度も試されている。近年では2020年上半期に窪田正孝が主演を務めた『エール』が記憶に新しいが、どの作品も成功モデルを生み出せたとは言えず、男性主人公の朝ドラは、なかなか定着しなかった。しかし、男性主人公の造形を朝ドラヒロインの典型に当てはめることで『らんまん』は男性主人公の朝ドラを成立させた。
もちろんこの偉業は、神木隆之介の存在に負うところが大きいが、そのことを差し引いても、朝ドラにとっては偉大な達成である。今後『らんまん』をモデルにして、男性主人公の朝ドラが定期的に作られるようになっていくのではないかと思う。