長田の脚本は、史実を踏まえた上で、槙野富太郎の破天荒なエピソードを、朝ドラらしい優しい物語に改変していった。何より彼女が描こうとしていたのが、政治権力に翻弄される万太郎の姿だ。国家権力や学閥の人間関係に翻弄される研究者の苦悩という難しいテーマに『らんまん』は挑んでおり、終盤に入ると、神社合祀令や関東大震災に直面する万太郎の姿を通して、明治以降、急速に近代化していった日本の政治状況を炙り出していく。
万太郎は植物学の知識と精密画を描く才能、そして“天性の人たらし”と言っても過言ではない抜群の愛嬌によって、周囲の人々から愛され、植物学者として成長していく。
主人公の人間的魅力だけですべてが丸く収まっていく前半の展開は、ご都合主義的すぎやしないかと感じる瞬間も何度かあったが、神木隆之介の人懐っこい芝居は、人間的魅力によって全てをねじ伏せていく万太郎の姿に、強い説得力を与えていた。
しかし、万太郎はムジナモ発見の論文に植物学教室の教授の田邊彰久(要潤)の名を記載しなかったことが原因で、田邊の怒りを買い、植物学教室への出入りを禁止されてしまう。
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