◆フィジカルを超えた“心”の表現力
観ている人が苦しくなるほどの不幸を背負ったヒロインを演じた永野。そもそも彼女の豊かな表現力がなくては、物語が成り立ちません。目が見えない、感触がないという説得力を視聴者に持たせるには、難易度の高い演技が求められます。目の動き、体重のかけ方など、フィジカルでの表現はもちろん秀逸でした。
しかし、それ以上に、味覚を失う、嗅覚を失う――その瞬間で永野が見せた絶望や哀しみの表情は、観ていられないほどに苦しく、引きこまれました。一方で、永野が見せた笑顔や強さからも目が離せませんでした。自己肯定感が低かった雨が、心を失いながら、失うほどに心を強くして、笑顔を取り戻していく姿は、美しくて、眩しかったです。
その輝きは、10代の頃からモデル、女優としてキャリアを積み上げてきた永野の自身の魅力と重なり、役として強い光を放っているようにも感じました。まだ24歳?! 恐ろしい子……。2022年以降、3年連続で日本アカデミー賞を受賞しており、今年5月には主演映画『からかい上手の高木さん』が公開されます。これからの出演作も注目です。
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泣いたり笑ったり。さまざまな感情を届けてくれた女優たちの名演が光ったこの冬クール。これからもドラマや映画で、さまざまな魅力を放ってほしいと思います。
<文/鈴木まこと(tricle.ltd)>
【鈴木まこと】
tricle.ltd所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201