◆窪田正孝との“本物”のぶつかり合い
さらに、クライマックスとなる世界タイトルマッチで戦うのが、2020年の映画『初恋』でもボクサー役を見事に演じた窪田正孝というのがたまらない。
しかも、今回は『ある男』や『マイ・ブロークン・マリコ』での不器用でやさしい青年とは真逆の、不遜な挑発をしてくる“イヤなやつ”だったりするのだ。
だが、そんな彼でもボクシングにかける想いは並々ならぬことが、種々の言動や、実際の試合シーンで伝わってくる。
その世界タイトルマッチは4日間に渡り撮影され、第11ラウンドは安全面に最大限の配慮をしつつ横浜流星と窪田正孝のアドリブにより行われたため、それはなかばフィクションではない、“本物”の2人のぶつかり合いとさえ言える。
その試合シーンをを豊かな映像にするため、3台のカメラをフル稼働して細かく撮影していたのだが、横浜流星と窪田正孝の動きがあまりに速いため、撮影の加藤航平はカットの声がかかった瞬間にへたり込んでしまった時もあったという。
何より、実際に身体を鍛え上げ、プロの格闘家さえも説得力を持って演じられる、横浜流星と窪田正孝という夢のようなキャスティングがされ、そのふたりが文字通りに魂をぶつけ合うようなボクシング観られるということ……それ自体が奇跡のようだし、もう二度とはなし得ないことだと思うのだ。
この2人のファンであれば、もう「ありがとうございます」と拝みながら観るに違いない(筆者がそうだ)。
また、瀬々敬久監督は「決して勝つことだけがスポーツではない。格闘技の中にある勝ち負けを超えた世界も描いてみたかった」と語っており、それはまさに横浜流星と窪田正孝の闘いの中にはっきりと表れていた。
スクリーンで心ゆくまで、この2人の“世界”に浸ってほしい。
<文/ヒナタカ>
【ヒナタカ】
「女子SPA!」のほか「日刊サイゾー」「cinemas PLUS」「ねとらぼ」などで映画紹介記事を執筆中の映画ライター。Twitter:@HinatakaJeF