◆過去と現在をつなぐ“目印”

『流浪の月 シナリオブック』 凪良ゆう/李 相日(創元文芸文庫)
『流浪の月 シナリオブック』 凪良ゆう/李 相日(創元文芸文庫)
 主演と助演の狭間で松坂は、演技のスタイルを変えてきたとも言える。そうして演技に柔軟性を養ってきたのだが、それでいて変わらないものがひとつある。右頬にプチッと符号のように付いたホクロだ。あのホクロだけは、唯一変わらないもの。

 松坂がにっこり笑うと、膨らんだ頬にくっきり浮き上がる。ホクロの斑点自体が、演技をしているようにさえ見える。このチャーミングな斑点が、難しい役柄にも説得力を持たせてきたようにも思う。

 ある誘拐事件をめぐる男女の物語が描かれる『流浪の月』で松坂は、事件当時の過去と15年後の現在とで大きな開きがある役柄を演じなければならなかった。ふたつの時代を同じ俳優が演じても違和感が全然なかったのは、松坂のホクロによって役柄がうまく判別できたからではないだろうか。唯一変わらないものとしてのあのホクロが、過去と現在をつなぐ“目印”になっていた。