たとえば、ドラマでは今川義元は「太守さま」と「さま」付けで呼ばれ、家康が心から尊敬する、「王道」をいく人物として描かれているようですが、『御実紀』では「義元」と呼び捨てにされています。同書の世界観からすれば義元は、江戸時代において「神君」にほかならぬ家康公を、恐れ多くも長年にわたり人質にしていたというだけで悪人扱いなのでしょうね。脚本の古沢さんいわく「家康から見たらおそらくこういう人物に見えていたろうなというのを手がかりにつくっていってる」ということですから、「太守さま」呼びは、当時の家康から見た義元像ということなのでしょうか。

 それ以上に気になったのは、家康最初の正室で、今川義元の養女である瀬名姫(後の築山殿)です。ドラマでは「心優しい姫」として描くようで、これは大胆な読み替えとなりそうかな、と思われました。というのも、歴代徳川将軍にまつわる女性についてまとめた史書のひとつ『柳営婦女伝系』において、瀬名姫は「無類の悪質嫉妬深き婦人」……つまり「非常に性格が悪く、嫉妬深い女性」と酷評されているからです。

 瀬名姫といえば、近年の大河では、2017年の『おんな城主直虎』で菜々緒さんが演じた「瀬名」の記憶がまだ新しいですが、『直虎』では、今川家の人質ではなくなった後でさえ、家康(阿部サダヲさん)にとって「頭の上がらない妻」として描かれていました。『どうする家康』では、「瀬名」役の有村架純さんによると、「悪女とは真逆の、とても穏やかで家康さんをそばで支えるあたたかい女性、愛情深い女性」として描かれるそうです。