若きキャサリンを演じたレイラ・ジョージは、まさにケイトと二人でキャサリンというキャラクターに一つの魂を吹き込んだキーパーソンですよね。レイラのキャスティングはどのように決まったのでしょうか。
キュアロン:レイラのキャスティングを決めたのは結構後になってからなんだけど、それは当初、若い頃のキャサリンもケイトに演じてもらって、AI技術で見た目を若返らせるという前提で動いていたからなんだ。でも、ケイトも僕もAIが作る映像に強い違和感を感じたし、映像技術の進歩に観客が気を取られてしまうことは避けたかった。そこで若いキャサリンを演じる別の俳優を探すことにしたんだ。レイラは最初と終盤でまったく異なる演技をしてくれる。もはや別のふたつのキャラクターといってもいい役を演じこなし、両方に命を吹き込んでくれたよ。
若きキャサリンとジョナサンの一時的な関係を描く小説パートは今作の重要な部分ですね。このシーンはどのように作りあげたのでしょうか。
キュアロン:小説に書かれたものとしての映像は、言ってしまえばファンタジーなんだ。だから人工的な感じを強調したロマンティックな映像で、音楽だって超ロマンティックにした。1970年代後半のフランスやイタリアの恋愛映画なんかを意識した世界観にして、現実パートとのコントラストを際立たせたつもりだよ。最初からオーディエンスにわかりやすく「これは小説です」「ファンタジーです」と伝えられるよう工夫したんだ。
大人なキャサリンに近づく多感な時期の男子 ジョナサンのシーンを見て、監督の過去作『天国の口、終りの楽園。』も思い浮かんだのですが、同作から20年以上経つ今、監督の恋愛や情愛に関する考え方や撮影への向き合い方に変化はありましたか?それとも一貫して変わらない部分も多いですか?
キュアロン:多感な時期という人生のひとつの期間におけるリアルを切り取った『天国の口、終りの楽園。』と、今作で“小説の描写”としてロマンチックな世界観に振り切ったショットでは映像的アプローチのしかたは大きく異なるね。でも人生の多感な時期に対してのイメージ・価値観は今も変わらないな。ティーンエイジャーから大人への発達段階だからこそ得られる新たな発見や好奇心や楽しさがある一方で、人生に関する一種の失望も感じる、そんな特別な時期だ。