登場人物の感情が大きく揺さぶられるシーンも多数ある今作ですが、撮影時やキャストの演技づくりの段階で、特に印象に残ったり、こだわったシーンといえばどこですか。
キュアロン:社会との関係においても感情的な意味でも常に緊迫感を感じる作品だから、疲れ果てるシーンはたくさんあったよ。キャサリンとロバートのすれ違いや、特に終盤のキャサリンとスティーヴンの衝突といった緊迫したシーンは感情を振り回されたよ。
キュアロン:でも、誰もそういった人生の場面・揺れ動く感情からは逃がれられないのが現実だ。皆の人生にもあふれている感情を描くために、何日も感情的なシーンの撮影に費やしたよ。
キャサリンの家族とナンシーの家族、それぞれに過去と現在も描かれて、物語が同時並行して入り乱れる今作ですが、ストーリー構成や編集、進行のテンポ感などにおいて特にどのようなところをこだわって作りましたか。
キュアロン:テンポづくりに関していうと、僕はいつも映像作品を音楽のように考えているんだ。映像も音楽も時に長く体感し続けたいシーンもあれば、圧縮して伝えてほしいこともあるよね。物語を伝えるにあたって、そういった緩急でコントラストをつけることは非常に大切だと考えている。
キュアロン:それぞれのストーリーラインが独特で異なる映象的な文脈を持っていて、それぞれがメロディのように感情を揺さぶるけど、僕らが一番大切にしたのは「絶対に観客を迷子にはさせるな」「観客を困惑させるな」という考え方だよ。観客に想像を広げさせたり、ある程度戸惑わせるくらいなら構わないが、「意味がわからない」と困惑させることはしてはならない。
たしかに、複雑な構成に見えて、自然と理解しながら観進めることができるシリーズでした。
キュアロン:うん、たくさんの要素をどんどん見せる物語だけど、観客が過度に戸惑ったりはしないよう、それぞれの物語につながりがあることを理解しながら観られる構成にしたつもりだよ。
原作から映像化するにあたって、あえて大きく変更した部分はありますか。
キュアロン:変更した点はたくさんあるよ!本は概括的な映画的要素、説得力のある物語を提供してくれた。ただ映像作品としてそのまま仕上げても、良い作品にならないと感じた。過去に起きた出来事を描きつつ、それを踏まえて現在進行形で歩んでいるそれぞれの物語にフォーカスを当てた映像作品にするために、構成に関する変更を頻繁に行ったんだ。