◆「大吉原展」がここまで炎上したのはなぜ?
――そういった遊女の実態を踏まえた上で、今回の大吉原展の問題点はどこにあると考えていますか?
渡辺:吉原の文化的側面だけにフォーカスされ、それを支えて犠牲になっていた遊女たちのことが、公式サイト情報から抜け落ちている点です。ただし、これまでにも負の側面を削ぎ落とした“きらびやかな江戸吉原”という文脈は商業出版やメディアの中で繰り返し作られてきました。
その上で、今回の展示が炎上したのは、従来的な江戸吉原像をわざわざ“日本唯一の国立総合芸術大学である東京藝術大学(以下、藝大)が”再生産することに多くの人が疑問を抱いたからでしょう。
――内容が藝大に期待するものではなかったと。
渡辺:とはいえ、私は10年前だったら開催前にここまで炎上しなかったのではとも思うんですよね。昨今、芸能界での性搾取・性暴力が問題視される中で、意識的に吉原の負の部分を見せようとしない姿勢が時流に合っていないのでしょう。
ですが、私はこの展示を中止すべきではないと思っています。もし、現在の社会の意識をキャッチアップした、吉原の功罪両面を見せた展示が見られたら喜ばしいですから。ただその場合でも、なぜあのような広報をしたのかという問題は浮き彫りになるかとは思います。