新海監督は自分の作品を観てくれているファンの声をしっかり聞いているところも、人気の要因でしょう。新海監督にとって大ブレイク作となった『君の名は。』ですが、「災害をなかったことにしている」という批判の声が一部にありました。そうした声に対し、「もっと観客を怒らせてやろう」と考えたのが『天気の子』でした。確かに『天気の子』の壊れてしまった世界を描いたラストシーンは、観客に大きな不安を残しました。
その点、ディザスター三部作の完結編になると思われる『すずめの戸締まり』では、鈴芽の幼い頃の記憶は東日本大震災と直接結びついていますし、「死ぬことは怖くない」と口にしていた鈴芽は次第に草太と生きることに希望を見出すようになります。後味のよいエンディングです。まぁ、メジャー作品らしい分かりやすい落とし所だと思います。
さて、「ポスト宮崎駿」と目されている新海誠監督ですが、『君たちはどう生きるか』(23年)で2度目のアカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した「生きる伝説」宮崎駿を超える日は訪れるのでしょうか。
興行的にはすでに宮崎駿作品に匹敵する実績を残している新海監督ですが、海外の映画賞に今後選ばれるようになっても、アニメ界の黎明期から活躍し続けた天才アニメーター・宮崎駿の伝説の領域に達するのは容易ではないはずです。しかし、明確に宮崎駿監督を乗り越える道がアニメ界には残されています。