批判の声にも耳を傾ける新海監督
地方で暮らす若者たちのナイーヴな心情を丁寧に描き、その心情にフィットした背景の美しさで、新海誠作品はロスジェネ世代以降の幅広い層に絶大な人気があります。もちろん、心情を丁寧に描くだけでは、これだけの大ヒットを連発することはできません。
新海監督の劇場デビュー作『ほしのこえ』(02年)は庵野秀明監督のオリジナルビデオアニメ『トップをねらえ!』(88年~89年)、最大のヒット作『君の名は。』は作家・乙一のライトノベル『Calling You』といったサブカル系の要素を、それぞれ巧みに取り入れています。村上春樹の小説を思わせる主人公の自意識の高さも、新海作品の特徴です。
民俗学を扱った星野之宣の『宗像教授伝奇考』(小学館)や諸星大二郎の『妖怪ハンター』(集英社ほか)などの伝奇コミックに、恋愛要素やアクションシーンを交えてメジャー仕様にすると、『すずめの戸締まり』のようなヒット作になるのかもしれません。音楽業界でいうところの「サンプリング能力」に、新海監督はとても優れたクリエイターだと思います。
東宝系で全国公開された『君の名は。』『天気の子』『すずめの戸締まり』ですが、自然災害に遭遇した若者たちが、困難な状況下で判断を迫られる様子を描いていることでも共通しています。『君の名は。』は巨大隕石の落下、『天気の子』は天候不順となっていますが、どれも2011年に起きた東日本大震災のメタファーでした。直接的に大震災を描くことはためらっていた新海監督が、『すずめの戸締まり』では真正面から東日本大震災に向き合ったことも押さえておきたいポイントです。ちなみに草太が椅子になって動きを制限されているのは、「コロナ禍」の隠喩だそうです。