◆自分に自分で“平気、平気”と言い聞かせながら

「うっすら夕焼けの夕暮れにベランダから外を見ていたときのこと。少し遠くの空が急に真っ暗になり、花火のような音が鳴り、金ぴかの無数の大きな光がパラパラパラと音をたてて落ちてきました。

そして、そのすぐあと。うちは5階なのですが、ベランダの1階の……つまり地上の左手のほうで、若い男性ミュージシャンがギターを弾きながら聞いたことのない歌を歌っていました。

ああ……また幻聴と幻覚だ……と思いながら、私は、自分に自分で“平気、平気”と言い聞かせながら、自転車で近くのコンビニに買い物に行ったんです。でもね……自転車をこぐ私の左のほうから、ずーっと、その歌声が聴こえるんです。それと、その男性がずっと私の左半分に寄り添っているような感覚って言うんですかね……人はいないのに、べったりとくっついてくる人影はあるという感じでした。その感覚は、ずっとコンビニで買い物をしても続いていて、帰宅途中までうっすらと続いていました。

ほかにも、リビングでお昼寝をしようとすると、窓の外からは、あるはずのないお祭りの太鼓の音や子どもたちの賑やかな声がしたり。外から帰宅してドアを開けた瞬間に、なぜか『酒と泪と男と女』……でしたっけ? 昔流行っていた歌。それが流れて来たり……自分の趣味とは無縁の音楽や映像に出会うので、なんとも不思議なんです」

 ルカさんは、いちばん最初に幻聴と幻覚かもと感じてから、すぐに精神科を訪れ、アルコール依存とうつ病の薬を処方してもらっている。少しずつ症状は軽くなってきているが、いまだに急に突発的に音が聴こえたり何かが見えたりするので、それが怖くて夜はひとりで家にいることができないそうだ。

◆お化けといつも隣り合わせで暮らしている感覚

「娘の習い事で外が暗くなるまでひとりのときには、家にいるのが怖いので、お迎えまでの時間をファミレスで過ごしています。ほんと、これは体験した人にしかわからないことだと思いますが、めっちゃコワいんです。お化けといつも隣り合わせで暮らしている感覚です。

なんのゆかりもない、観たことのない映像や聴いたこともない音が症状として出てくる原因は、医師にもわからないそうです。お酒をやめれば治るとは限らないけれど、治る確率が高いそうです。だから、やめるのがいちばんいいのですが、なかなかやめられなくて。

量は減りましたが、こんな怖い思いをしながらも、毎日、焼酎の小瓶くらいは飲んでしまうんです」

ファミレス
 ちゃんとお酒をやめたい……そういう気持ちはもちろんある。先日は、電車で5分のご近所に見つけた、お酒や薬物を止めたい人のための自助グループを訪れてみた。

「そのグループの教本のようなのがありましてね。みんなで読まされて、意見交換とかさせられるんですよ。なんかこう……宗教的な空気というか……なじめず挫折しました。でも本当にお酒をやめなくちゃと思っています」