──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

 前回の『光る君へ』第38回・「まぶしき闇」では、道長(柄本佑さん)や中宮・彰子(見上愛さん)が産んだ一条天皇第二皇子・敦成親王に対する呪詛の形跡が発見され、騒動が起きる様子が描かれていました。呪詛を行った円能という法師が逮捕され、尋問された結果、藤原伊周(三浦翔平さん)の関与も明らかとなっていましたね。呪詛用の木片を噛み割ってしまう三浦さんの熱演が筆者の周囲でも話題となりました。

 あれだけ歯が丈夫な平安時代の貴族は実在したのでしょうか?

 平安貴族は歯を大事にしており、伊周(そして道長)の祖先にあたる藤原師輔(もろすけ)は、子孫たちに守るべきモーニングルーティンの一貫として「楊枝を使え」と命じています。朝起きたら必ず「口をゆすいで、歯磨きをしろ」といっているんですね。

 歯磨きに使われる楊枝は、先端が房のように加工された特別な楊枝でした。成人した証しとして、貴族の男女が歯を黒く染める「お歯黒」をするのも、実は虫歯や歯周病予防の一貫です。お酢、酒などの溶液に鉄くずや古い釘などを入れて数カ月放置し、溶けたものを歯に塗っていたのですが、見た目とは裏腹に虫歯予防の効果が期待できたそうで、公家だけでなく武家や庶民の間にも広がっていきました。

 平安時代では、虫歯を「むしかめば」と呼びました。当時の代表的な医書『医心方』によると「朝晩、歯を磨けば虫歯にはならない。食事をしたら必ずうがいはしなさい」などの予防法が書かれています。それでも歯を悪くすると、当時の医療技術では無麻酔で抜歯するしかなく、なかなか大変なことになったものです。

――さて、ドラマの中で逮捕された円能法師なる男が縛られ、拷問にかけられている様子が描かれていましたが、平安時代の「取り調べ」とはどのようなものだったのでしょうか。いうまでもなくカメラ映像もなければ、DNA鑑定のような便利なツールは存在しない時代ですから、すべては容疑者の自白次第でした。しかし、奈良時代の大宝元年(701年)に成立した「大宝律令」には、犯罪者の自供を得るための拷問に関する規定が厳密に定められており、これが興味深いのです。